赤鯱新報

【特別短信:巻き返しを期する者たち】第1回:和泉竜司

福岡に大勝し、ついに残留圏内へと浮上した名古屋は5日間のオフで英気を養い、次週の短期キャンプでさらなる進化を期する。わずか1ヵ月での驚異のV字回復を実現したジュロヴスキー監督の手腕はその即効性からしても素晴らしいの一言。永井謙佑や小川佳純、古林将太、磯村亮太など再生した選手も多く、負傷者も全員が戻った33名の陣容はいま充実の一途を辿っている。

しかしその一方で、指揮官の期待に応えられず、出場機会を失った選手たちもいる。その一人が和泉竜司だ。今季加入の大卒新人ながら、前体制では負傷さえなければ主力として数えられた実力者であり、人材豊富な2列目においても決して見劣りすることのない才能を持つ男だ。しかし、監督交代後は初戦のFC東京戦で途中出場の26分間、翌週の天皇杯2回戦・長野戦ではスタメンながら57分間で交代している。以後、和泉はベンチ入りすらできず、トレーニングもサブ組で紅白戦にもロクに参加できない日々を送っている。

「この状況というのは自分のせいだと思っています。ここから見せていくだけです。自分が変わらないと、何も変わらないと考えてやっています。もう1回、自分の良さやできることを練習で見せていく。焦りはもちろんありますけど、残り試合は少ないですし、そこで試合に出て貢献できるようにしたい。そのためにも、今は自分と向き合うことです」

聡明な新人は冷静に自己分析を重ねたのだろう、よどみなく確かな言葉を並べた。分岐点は天皇杯でのプレーにあるとし、自らの力不足に理由を求める。それは恩師ともいえる前監督の教え、「答え合わせを外に向けるのは誰でもできるし、外に向けて本人の発展、成長は絶対にない」という考え方そのものだ。

「天皇杯はチャンスだと思っていたんです。そこであんなプレーしかできなかった。力が足りないと感じました。そのことは真摯に受け止めないといけないですし、メンバー外になっている今の状況は、だからこそ自分のせいだと思うんです。ここからスタメンになれるかどうかは自分次第。ただ、少し考えすぎたのかなとも思ってはいるんです。監督が代わって、チームとしてのプレーの中に自分の良さが出せていませんでした。チームの中で自分がやるべきことをやったうえで、ここからは自分の良さも出していけるようにしたいです」

しかしながら和泉の立場は厳しい。以前はまだ紅白戦のメンバーに入ることもあったが、最近では完全に別メニューでの練習が続いている。時間がない中でのチーム再構築においては少数精鋭で集中的なトレーニングを行わざるを得ず、22人の紅白戦枠に入れなければ直接的な監督へのアピールは難しい。「最近はあまりトップチームと一緒に練習ができていないんですよ」と和泉も苦笑する状況は、定位置を奪い返そうとする選手たちにとってはなかなかに厳しい環境だ。さらには天皇杯での印象がよほど悪かったのか、ジュロヴスキー監督の和泉に対する評価も、「試合を見ていても、何か違いを作れるようには思えない。もっと成長しなければいけない」と現状では低いままだ。

「こういう時こそちゃんとやらないと。監督は見ていると思うんです。こういう時に何をしているかを。普段からの行動を含め、何をすべきかを考えるのが大事です。一喜一憂せず、自分の良さを出せるように普段の練習からガムシャラにやる。100%以上の力でやる。チームの戦術やポジショニングは大事ですけど、そこを意識しすぎると自分が出せなくなるので、プロとして戦術を理解をしながら自分のプレーをする。そうしないと試合には出られないと思います」

和泉は驚くほど冷静だった。監督の評価を自己評価としても認識し、何をすべきかを的確に把握している。練習を見ていても、プレーのキレに変わりはない。ボールを懐に収める技術とゴールへのアプローチの上手さは、やはり図抜けた存在だ。チーム戦術の中でそれを活かせるようになれば、背番号29はラスト3試合へ向けての大きな“補強”になりうる。

頼もしいのは、和泉がただクールなだけのキャラクターではないところだ。

「そりゃあ、悔しいですよ。メンバーに入ればやれると思っているし、負けているとは思いません」

静かなる炎を胸の内に秘めて。和泉竜司はまだ、スタメン奪取を諦めていない。

reported by 今井雄一朗

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