赤鯱新報

【赤鯱短信】名岐ダービーを前に高木義成が引退を発表。名古屋の同僚GKたちが語る、素顔の高木義成とは。

高木義成が引退を発表した。本来なら他チームの選手について熱を込めて話すのはこのメディアの性質上はあまりよろしくないのだとは思うが、名古屋のクラブ史上唯一の背番号50は特別扱いしたい選手の一人だ。同い年で、一時期はちょっとケンアクなムードになったこともあった男だが、今は大切な友人の一人(だと思っているんだけど、大丈夫だろうか)になった。だからプロスポーツ選手にとって人生最大クラスの分岐点である引退という節目を迎えたことを聞かされた時は、ちょっと言葉を失って、ちょっと混乱した。

岐阜に移籍を決めたのが、一昨オフのこと。戦力としてのオファーを受けて名古屋を後にし、1年目の昨季は31試合に出場。序盤戦ではボールが蹴れないほどの左足首の負傷に悩まされ、その後は37歳にしてグロインペインにも襲われた。引退を決意した経緯には、グロインペインの影響も多分に含まれると高木は告白する。思うように身体が動かせない中で今季の彼は名古屋時代と同様に第2GKという“ポジション”で戦ってきた。Jリーグ有数のチームプレイヤーとしての誇りは年齢やキャリア、状況やクラブを問うことはない。そして今、彼は闘いの日々に終止符を打つことを自ら決めた。それができる選手がどれほど幸せなことか。


彼が尊敬して止まない偉大なる先達には、引退発表の1週間前ほどに報告したという。「もしかしてというところは感じていたし、ひょっとしたらもう少しやるのかもしれないと思ってもいた」と、楢崎正剛は話す。その表情は温かく、後輩の決断をそのまま受け入れた様子が見て取れた。

「残念、とは思わないかな。そりゃあ、長くやっている同年代の選手がいなくなる時には常に寂しい思いがする。でも、この世界では仕方ないことだし、義成は義成なりに頑張ったサッカー人生だったと思うので」(楢崎)

特殊なポジションであるGK同士には、他のポジションにはない特別な絆があるものだ。高木が楢崎を尊敬していたように、楢崎もまた、高木を尊敬している。彼のことを聞くと、「何か、『日本一の第2GK』とか言ってたけど」と笑い、いつもよりやや饒舌に話した。

「自分がやるべき仕事に徹するプロ的な考えを持った男だし、今どきの感じを醸し出しつつ、すごく男らしいところも持っている。『日本一の第2GK』って言ってたけど、それはそれで面白かったし。もちろん、そんなつもりでピッチでやっていたわけではないだろうしね。尊敬していますよ。何かと身体は強くて壊れない選手だったし、それでもヒーヒー言うて、全然平気なくせに疲れたフリして練習をやって。そうやって自分たちを盛り上げるようなこともしてくれたし、いろんな意味で、特に精神的にすごく支えてくれているような、助かる存在でしたね。それとベンチも変えてくれた。なかなかベンチで選手は明るくだとか、前向きにというのは難しいんだけど、アイツはベンチでも戦っているという姿を見せてくれた。選手の鑑だと思います」


そして「なかなかすごい38歳ですよ。これからも持ち前の“パワー”で頑張って」と41歳は締めた。今日の名岐ダービーはお互いにベンチから戦況を見守る可能性もあるが、彼らが共有した「チームを支える」という仕事ぶりは、ピッチ内と同じぐらい注目のポイントになるかもしれない。

ところで高木の名古屋時代の同僚といえば、現広報の西村弘司もつながりの深い人物だ。それぞれヴェルディとサンガの選手時代に対戦経験があり、「いきなり左足でゴールキックを蹴りだすからビックリしましたよ。逆足で蹴るなんて、技術もそうだけど、心臓が強いんだと思った」と、そのファーストインパクトは何とも豪快なものだったらしい。その後、彼らは巡り巡って名古屋で再会。6年間のGKチーム生活で、西村広報は高木の人間的な魅力を強く感じたと語る。

「人を引き付ける力がすごくて、周りに人が集まってくるんですよ。兄貴みたいな感じ。温かいし、気を配れるし、チーム全体を見ているんだなと思っていました。ベテランからルーキーまで、チームのバランスをとってくれていた。性格は底抜けに明るくて、でも1対1になると真面目な話もしてくれる。でも、ナリさんの引退は残念ではないんですよ。それは本人から連絡をもらった時の電話のテンションが残念な感じではなかったのもそうなんですけど(笑)、まだまだ人生は続くわけでね。サッカーで出会った人なんですけど、付き合いは今後も続いていくと思うし、そういう人が山ほどいるのがナリさんという人です。これからも人と人の付き合いを大事にしていくんだろうなと思う」


本当は楢崎と西村広報によるGKとしての高木評も載せようかと思っていったのだが、そろそろお腹いっぱいなので割愛する。ライブ配信していた引退記者会見の模様を見ても、スッキリと引退表明をできたようなので、十分だろう。今後については明言を避けていたが、どうやら面白い行き先を考えてもいる様子。それは実に彼らしい、そして彼の“持ち味”が最大限に生きる職業のようなので、逆に楽しみなほどである。こちらとしても、まだまだ顔を合わせる機会がありそうなのは実に嬉しい。


さて、しばしの感傷に浸ったあとは名岐ダービー、そして残る8試合+αの戦いである。佐藤寿人は「名古屋の方が長く在籍していたんだから、結果は名古屋にとって良いものにする」と引退ブーストに待ったをかけた。高木を巡るあれこれも楽しみの一つとなったダービーマッチは、なかなかにメモリアルなものとなりそうだ。

最後はもちろん高木自身に締めの言葉を頂こうと思う。記者会見で思いの丈はほぼすべて表現できていたような気がするので、ここでは名古屋についての気持ちを一言だけ。気になる引退会見はYouTubeに本人自らアップしているので、そちらをご覧ください。ちなみに、引退後はYouTuberになるわけではなさそうです。

「ちょうど30歳になる時に名古屋に来て、まあ1~2年やれたらいいかなという感覚でいた自分が、そこから6年間もプレーすることができたのは、ひとえにグランパスのおかげだと思っています。加入1年目で優勝できたのもそうだけど、巡り合わせだよね。名古屋に来たのもそういう良いタイミングだったんだと思います。というか、ナラさんのおかげかな。“本物”を見ながら自分も頑張ろうと思えたから、そこから6年間もやれたんだと思う。オレなんて、グランパスなんていう良いクラブで、オレみたいな選手はすぐクビになると思っていたからね(笑)」

最後まで高木節全開である。残り少ない現役生活もその調子を失わず、彼一流の哲学を貫き通してほしい。お疲れ様でした。

reported by 今井雄一朗

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