川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】試合の監督会見は興味深い話の坩堝(るつぼ)【コラム】

試合の監督会見は興味深い話の坩堝(るつぼ)

公開されない監督会見でのやり取り

試合が終わった後に、監督が試合の感想をひと通り述べる。その後、記者の質問に対して監督が答える。基本的に1問1答形式であるが、最近は1人の記者が続けざまに質問をするケースが増えている。

監督と記者のやり取りは、WebならばJリーグとクラブの公式サイトで閲覧できる。しかし、きれいな文章にまとめられていて、監督と記者のコミュニケーションからうかがえる息づかいは聞こえてこない。実は、掲載されていないやり取りにおいて、監督の性格やチームの把握度が知られる場合が多い。

数年前ならば、Webサイト「J’s Goal」で会見談話が閲覧できた。そこではほぼ全文に近い形で掲載されていた。しかし、監督が「審判批判」を述べた談話は、「J’s Goal」の中で、一切載せていなかった。鹿島アントラーズで監督を務めたトニーニョセレーゾは、試合後の監督会見で審判批判をよく述べていた。彼の「審判批判」は、鹿島が試合に敗れた時に用いられていて、敗戦の理由の1つを審判のジャッジに加担させて、自身の采配ミスのスケープゴードにする側面もあった。確かに、審判のジャッジミスがあったことは事実だ。それにしても、なかなかしたたかな人物だった、と私の記憶には残っている。

先述した「ほぼ全文に近い」の中では、監督と記者の細かいやり合いは省かれることが多い。読者にとって読みやすく分かりやすくするための配慮である。実際に私も、監督や選手の談話を「話し言葉」そのままでは公開しない。試合が終わってまだ興奮した状態の監督や選手の話をそのまま載せても、読みにくい文章になってしまうからだ。しかし、公開されない部分は、興味深い内容が含まれていることが、しばしばある。

選手の適正ポジションはどこなのか

8月11日、水戸ホーリーホック対ロアッソ熊本(明治安田生命J2リーグ戦第28節)が、ケーズデンキスタジアム水戸で行われた。30分に黒木晃平のシュートで熊本が先制。53分になってセンターハーフ(ボランチ)のロメロフランクが同点弾をゴールに打ちつけ、1-1のドロー。両者痛み分けに終わった。

試合が終わって、会見場に監督が現れる。先に席につくのは、アウェイチームの監督からである。熊本の清川浩行監督の談話が終わると、ホームチームの西ヶ谷隆之監督が会見を始める。

最初に質問する記者は、ホームチームのオフィシャルライターか、サッカー専門新聞「エルゴラッソ」で執筆する番記者だ。水戸の場合、サッカーライターの佐藤拓也が先陣を切る。彼に続いて質問するのが、筆者である。この日も同じパターンで会見が進んでいった。

試合を見ていて、気になったことがあった。船谷圭祐の適正ポジションはどこなのかである。船谷のポジションに疑問を持ったキッカケは、ロメロフランクの適正ポジションがボランチであると、やっと見つけられたからである。西ヶ谷監督は、ロメロフランクを前線と中盤のポジションで何通りかの組み合わせを試した。2トップの一角に置く。サイドハーフでプレーさせる。ボランチをやらせる。

監督は、ロメロフランクの近くにいる選手との相性も考慮に入れていた。ロメロフランクがボランチに入った場合、兵働昭弘とのコンビが最も彼の力を生かせる。試合を見ていて、ロメロフランクの適正ポジションがボランチだとはっきりしたことで、船谷の適正ポジションは一体どこなのかを考えてみた。

そして、筆者の疑問を監督にぶつけることにした。

西ヶ谷隆之監督と筆者のやり取り

筆者:選手には適正ポジションがあると思うんです。船谷選手は、FWの一角で使われていますが、彼の適正ポジションは本当にあのポジションなのですか?

記者が質問したら、監督は普通、自分の考えを述べていく。しかし、この日は違った。筆者の質問に対して、西ヶ谷監督が、逆に問いかけてくる。

監督:じゃあ、どこだと思いますか?

監督の逆襲に、私は一瞬戸惑ったが、ずっと考えていたことを話すいい機会を得た、と考え直して話し出す。

筆者:FWで使い、サイドで使い、ボランチでも使った。うまくフィットしない。だからと言って、外すわけにはいかない技術を持った選手。そうすると「4-2-3-1」にシステムを変えて、彼をトップ下で使う。そういうことは考えていないのですか?

監督:2トップでやっても、マイボールの時は、彼が落ちてポジショニングしてくる(※「4-2-3-1」になっている、と監督は言いたいのだろう)。ポジションの概念ということについて、僕はそんなに(特別なモノを)持っていないんです。

筆者:きょうの久保(裕一)選手の出来を見ると、平松(宗)、久保の2トップでやった方が得点力はアップするんじゃないかと思えるんですが。

監督:もちろん、それも考えています。新しく入ってきた選手なので、チームにフィットさせる部分を考えないといけない。(佐藤)和弘を含めて調子が上がってきている選手がいる。ゲームを作れる選手もいます。(選手たちの)競争の中で、どの組み合わせで勝負するのか、というのもある。久保なんかまだ、コンディションが上がってきていないので、90分使ってケガをしてしまったら、というリスクがあります。そういう部分で新しい選手をどのタイミングで使っていったらいいのか。どうやってフィットさせるのか。どこで勝負させるかは、考えていることです。

フナ(船谷)に関しては、どこでも、しっかりできますけど。(サッカー)IQの部分で、こちらの意図をしっかりと把握してやってくれている。どこのポジションでも大丈夫かなと思っているんです。ただ、きょうの試合に関しては戦えていなかった。しっかりキープができなかった。それと前に圧を掛けないと、うちはやっていけない。全体の推進力がでてこない。きょうは、彼にとって難しいゲームだったのかと思います。そういうゲームもあるので。まあ、(フィットしなかったのは)彼だけではないので。そこをしっかり、僕自身がチームとしてマネジメントをしていければと思っています。

西ヶ谷監督の考えははっきりしている。「戦えていない」と監督の目に映った選手は、どの試合でもどの選手でも途中交代させられている。この試合は、船谷が前半を終えて久保と交代した。

公平さにおいて誠実であって、工夫をした戦い方を持つ戦術家

西ヶ谷監督の印象は、選手に対して特別扱いをしないということだ。戦い方においては、とても工夫をしている姿が目に映る。昨季と相当に違ったメンバー構成から、チームを作り直して、戦術を落とし込む作業はとてもハードルが高い。それも、公式戦を通して構築していかなければならない。

試合を見ていて、監督の仕事の大変さがうかがえるので、監督会見では彼の仕事に対してリスペクトを持って質問するように心掛けている。だからと言って、聞きにくいことを避けることはできない。

船谷の適正ポジションについて、監督が相当に苦心していると映っていた。筆者は、彼の適正ポジションは、トップ下であると見ている。それだから、「4-2-3-1」にシステムを変えても、彼を起用する気があるのかを尋ねた。監督は「4-4-2」のボックス型から変えるつもりはないと見えたので、おそらくシステム変更はないだろう。そうすると、スタメンでの船谷のポジションはなくなる。船谷自身が、プレースタイルをもっとアグレッシブにして変えていくしか、彼がスタメンで生かされる道はない。これが、筆者の考えていたことで、監督がどのように答えるのかを知りたかったのである。

船谷ほど技術とセンスがある選手を試合頭からベンチに置いておくのは、もったいない。どうか彼には、奮起してほしい。試合後の監督会見には、興味深い話が多く語られる。それら全ての談話は、公開されずに消えていく。消えていくモノの中に、意外と真相は隠されているのである。

川本梅花

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