川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】9月30日、Futbol&Cafe mfに「お別れ」を言いに原宿に赴く

9月30日、Futbol&Cafe mfに「お別れ」を言いに原宿に赴く

渋谷区神宮前にあるfútbol & café MFが9月末日をもって閉店すると知ったのはTwitter(@mf_tokyo)の告知からだった。初めてmfカフェを訪れたのは、元U-20ホンジュラス代表GKコーチの山野陽嗣(@yoji_yamano)に紹介されたからである。彼は、本サイトのGK分析のコーナーを担当している。

山野と一緒に行った後、mfカフェを訪ねたのは原稿の締め切りに追われた時だった。以前は、街の場末の喫茶店とか、マックドナルドとか、ガストとかで書いていた。今はほとんど自宅でパソコンに向かって執筆する。

その日は、全く原稿が進まなかった。待ってもらっていた原稿は、『サッカー批評』(双葉社)のもので、編集担当者には「早く送ってくれよ」とヤキモキさせた。『サッカー批評』の僕の担当もこのサイトの編集長である渡辺文重(@sammy_sammy)が受け持っている。その日は、いつもと違った場所で雰囲気を変えないとマズいと感じるほど、文章が進まなかった。そんな時に、mfカフェを思い出したのである。「ああ、あそこでなら、書けそうだな」と。「よし」と決心して、パソコンを持って電車に乗って原宿駅まで向かう。電車の中でも、パソコンを開いてキーボードを打ち続ける。

原宿駅に着くと、竹下通りの坂道を一気に下っていく。大通りに出て横断歩道を渡って、壁に突き当たるまで歩く。左折してしばらくすると目的地が見えてくる。

「あっ、どうも」

と、二度目の来店の僕を、オーナーの有坂晢が笑顔で迎えてくれた。

最初に山野と訪れた時、有坂は、『サッカー批評』で連載していた「哲学的思考のフットボーラー 西村卓朗を巡る物語」の読者だと告げてくれる。有坂は、このように感想をくれた。

「選手の内面に迫った作品で、こういうのが読みたいんだよな、と思っていたものだったんで、すごく好きでした」。

二度目に訪れた僕は、「原稿が進まなくて。パソコン広げて書いていいですか?」と有坂に尋ねる。「もちろんいいですよ。それなら、コンセントがあるところがいいから、この席で」と誘導してくれた。昼過ぎに店に着いたので、名物料理のブラジルカレーとコーヒーと自家製のジンジャーエールを頼む。もちろん、原稿は完成して編集者の渡辺に無事に送られた。

9月30日、僕がmfカフェに着いたのは18時を過ぎていた。店に入ると、「あれ」と思う顔があった。SC相模原の菊岡拓郎選手が帰ろうとしている。菊岡のコラムをWeb「サッカーキング」で執筆したことがある。

SC相模原の『MOVE』に出会う旅 第2話 菊岡拓朗が胸に秘めていること『毎日、大事に、1試合の重みを』

「あっ、サッカーキングのですよね」

と菊岡の言葉。

「この間、大分戦を見に行ったんだよ。監督が安永(聡太郎)さんに代わったね。今は、アンカーやってるんだ」

「そうなんですよ。(ポジション的に)守備が大変なんですけど」

僕の問い掛けに言葉を返す菊岡だった。

mfカフェのTwitterを見ると、チームメイトの近藤祐介選手と一緒に来ていたようだ。菊岡との偶然の再会にびっくりした僕は、先に店の外に出た近藤に気付かなかった。

最後の日を惜しんで、次々に来客が訪れる。常連のお客さんたちにあいさつするオーナーの有坂。僕は、自家製のレモンスカッシュを飲んで、店を出ようとする。

「これからどうするんですか」

僕は有坂に問い掛ける。

「1カ月ばかり南米に行ってきます」

「えっ、それはいいですね」

と僕が言うと、有坂は今後の人生計画を話す。

「その後はサッカーのコーチに戻ろうと考えているんです」

「決まったら教えてください。取材を兼ねて会いに行きますよ」

「あっ、よろしくお願いします」

「写真、撮っていいですか?」

そう言って僕は、店頭の看板の前に有坂に立ってもらった。それが以下の写真だ。彼の笑顔は「やり切った想い」に包まれている。

【時間の暴走】第2話:9月30日、Futbol&Cafe mfに「お別れ」を言いに原宿に赴く

南米に赴く有坂にこの言葉を捧げたい。

¡que te diviertas! 「楽しんで来てね」。

そして、Hasta la proxima.「また会いましょう」。

川本梅花

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