川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】「サッカーの見方」の視点は消費されていく【コラム】

「サッカーの見方」の視点は消費されていく

僕は、街の本屋さんを利用する。書店で購入できる書籍や発売すぐの雑誌は、ネットを通して購入しないようにしている。買い手にとっての利便性、時間の短縮、単価を求めれば、アマゾンなどのサイトから購入する方がいいのかもしれないが、僕は、街の本屋さんに足を運ぶようにしている。

いつも利用する本屋さんで、店員さんたちのこんな会話を耳にした。

「6階にある本を5階に持ってくるしかないですよ」

と、店員Aさんが提案する。

「まあ、確かにな。利益を考えたら、それしかないか……」

店員Bさんが、店員Aさんの提案を受け入れる。

この本屋さんは、駅に隣接していて、ビルの3階から6階までが本屋さんになっている。おそらくこのビルは、本屋さんの持ちものなのだろう。3階のフロアには、雑誌と新刊、趣味の書籍コーナーが設置されている。趣味の書籍棚に「サッカー本」のコーナーがある。そこは、ほんの気持ち程度の枠組みで仕切られている。もはやサッカー本は脇に追いやられた。

ここの本屋さんで、サッカー本のコーナーが賑(にぎ)わっていたのは、2010年に僕と林雅人(中国2部リーグ浙江省杭州女子足球倶楽部監督)くんの本、『サッカープロフェッショナル超観戦術』(カンゼン)が出版された頃だったと思う。その時は、観戦術本が何冊も出ていて、話題になっていた。サッカーライターの木崎伸也くんの『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)や、清水英斗くんの『サッカー「観戦力」が高まる』(東邦出版)が注目を集めた時代である。

時代で話題になる「モード」は、瞬く間に消費されていく。今では「サッカーの見方」を教授する本はあまり見掛けない。本屋さんで目にするのは、西部謙司さんの本くらいか。それだけ、一般のサッカー観戦者の「サッカーの見方」がレベルアップしたのかどうかは分からないが、5、6年前に話題になった視点は、あっという間に消費されてしまったことは確かだろう。
【時間の暴走】第9話:「サッカーの見方」の視点は消費されていく
街の本屋さんは、いろいろなアイデアを出して、本屋さん自体の存在がモードに流されないように踏ん張ってはいる。上の写真でも分かるように、出版社別の棚作りから、作家優先の棚作りに変えてきている。それでも、もっともっと独自性を出すべきだ、と、実は、足を運ぶたびに思っている。全国の書店員さんが選ぶ「本屋大賞」のように、街の本屋の書店員さん、個人のベスト作品を展示したコーナーを作るとか、オススメの文章が書かれたポップでナビゲートするとか。都内の大きな書店では、コーディネーターによる独自なコーナーがあったりする。そうしたものを視察して、自店に取り入れるとか。何通りでも、やれることはあって、できることは全部やってほしい。街の本屋さんが、どんどん閉店に追い込まれている姿を目にするたびに、「ああ、ここもか」と悲しくなってしまう。それだけ、僕は、街の本屋さんで有意義な時間を過ごさせてもらった。本屋さんにいると、なんとなく、精神が落ち着く感覚があった。

「サッカーの見方」という視点が消費されてしまったように、「街の本屋さんの存在」も同様に消費されてしまうのだろうか。そうでないことを、僕は、願っている。

川本梅花

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