川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】取材は「町田市立陸上競技場」より【コラム】

取材は「町田市立陸上競技場」より

7月16日の日曜日の16時、僕は、小田急線の電車に乗っていた。

18時キックオフのFC町田ゼルビア対水戸ホーリーホックの試合を観戦するためだ。乗車した車両は、満員だったので、ずっと立って中継地点まで行くことになった。急行で新百合ケ丘駅まで行って各駅に乗り換える。目的地の鶴川駅に到着して、スタジアムまでのシャトルバスに乗る。到着するまで15分くらい掛かった。

記者席に行くと、タグマ!の『デイリーホーリーホック』でおなじみの佐藤拓也記者の後ろ姿が目に飛び込んできた。彼の後ろの席に座って、肩をたたいて合図する。

「水戸が好調だから、エルゴラ(サッカー専門新聞『EL GOLAZO』)で特集されて仕事の依頼が増えたんじゃない」

と僕は尋ねる。

「特集されたんですよ。記事を書く時間も内容も予定にないことだったんで。いつもは120文字で表現しなければいけないでしょ」

僕は心の中で呟(つぶや)いた。

「ああ佐藤くん、悪い。エルゴラのその記事、読んでないわ。まあ、最近はエルゴラ自体、あまり買わなくなったから……」

僕と佐藤くんは、水戸に関する話題を語り合った。

「萬代(宏樹)は、(AC長野パルセイロへ期限付き)移籍したね。今年で契約が終わるし、子供も生まれたし、年齢的に今季活躍しないと、来季は難しかっただろうから」

「ムードメーカーでした。チームを盛り立てる役割をこなしていたんですが、試合に出られないから、移籍もいた仕方ないですよね」

と佐藤くんは話してくれる。

「浜崎(拓磨)は、いいね。見ていて、彼はファイターだよね。根性あるよな」

僕がそう話をすると、「(西村)卓朗さんですよ」と強化部長がやってきたことを知らせてくれる。僕は、久しぶりの再会にうれしくなって、右手を伸ばして「卓朗!」と大きな声を出して握手をする。その瞬間、心の中で、「強化部長だから、呼び捨てにするのはまずいか……」と少し反省した。

ゲームが始まると、僕は、試合の行方と同時に、強化部長の方を視界に捉える。ゲームの進行と照らしながら、パソコンの画面をのぞき込む強化部長。彼の仕事の1つには、選手の評価があるので、この試合での選手のプレーに対してどのように採点しているのだろうか、と少し気になってしまう。

前半はゲームを有利に進めていた水戸だったが、後半になってセカンドボールを町田に拾われて、中央突破を許してしまう場面が何度もあった。町田は、後半になってチームのキープレーヤーの谷澤達也をベンチに下げ、若手の有望株の平戸太貴をピッチに入れた。相馬直樹監督のこの采配が功を奏して、平戸が自由にピッチを駆け巡る。谷澤の場合、自身がボールを持って中に入っていき、同時にサイドバックの松本怜大が縦に走り込んでいく。そこに中島裕希が絡んだりして、イエローゾーンに侵入してクロスを上げる戦い方があった。平戸の場合、谷澤のポジションに入ったのだが、相当に自由に動き回っていた。当然、平戸へのマークのズレも出てきて、町田にボールを支配される時間帯が増えていく。

この試合、大きなポイントは、後半30分に4バックを3バックにして、船谷圭祐を投入した場面だろう。西ヶ谷隆之監督が勝負に出たシーンだった。賭けがうまく行くのか、それとも失敗するのか。この日に限って言えば、賭けには失敗した。実際、3バックにしてから相手へのマークのズレが生じ、そこからほころび出したからだ。船谷のファウルによって、PKを与えてしまうことは、もちろん選手自身の守備力のなさが原因だが、3バックにしたことで、周りの味方の選手にも戸惑いという弊害を、もたらしたのかもしれない。

3バックにすれる際の守備の利点を考えれば、サイドの選手が引いて守るので、5バックになれることだ。そうすると、ウイングバックとなるサイドの選手は、町田のワイドにいる選手の防波堤となれる。攻撃では、左サイドの船谷をワイドでプレーさせることができる。オフサイドになったが、左サイドから相手のGKとDFの間に低いクロスを入れて、チャンスを演出していた。

結果的に、0-2で敗れてしまった水戸だったが、決してネガティブに捉える必要のない敗戦だった。何試合もこなしていけば、このような試合もある。しかし、視点によっては、いくつもの解釈が生まれる試合であった、と言える。

僕の記憶では、西ヶ谷監督が、試合終盤になって4バックから3バックに変更して、完璧にうまく行った試合を見た記憶があまりない。僕にとって、昨季の対清水エスパルス戦の逆転負けが、トラウマとして残っている。あの試合で何があったのかを、僕は、ずっとテーマとして、置いたままにしている。いつか、その答えを出さなければ、と考えているのである。

帰りの電車の中で、僕は、あの試合のことを、ゆっくりと思い出していた。

川本梅花

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