川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】今季は“心を入れ替えた”バルセロナに注目-ヘタフェCF対FCバルセロナ(後編)【無料記事】

今季は“心を入れ替えた”バルセロナに注目-ヘタフェCF対FCバルセロナ(後編)

分析対象試合
2017年9月16日 リーガ・エスパニョーラ第4節 ヘタフェCF 1-2 FCバルセロナ

得点者
ヘタフェ:柴崎岳(39分)
バルセロナ:デニス スアレス(61分)、パウリーニョ(84分)

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ開幕節・ユベントス戦からリーグ戦第3節まで、無失点を続けていたバルセロナは、ヘタフェMF柴崎岳選手のゴールにより、今季の初失点を喫した。柴崎選手のゴールで先制されたバルサだったが、ブラジル代表MFパウリーニョ選手がゴールを叩き込み、逆転勝利を収める。バルサはその後、9月19日のエイバル戦でも勝利を収め、5連勝の勝点15で首位をキープしている。

後編では前編に続き、スペインのバルセロナに住んでいる堀江哲弘(@tetsuhorie)に、今季のバルサの戦い方と戦力分析をうかがった。

バルベルデ新監督の下で変化したバルセロナ

――バルサはビルドアップの際、ブスケツ選手がセンターバック(CB)の間に下りて3バックなります。TVのフォーメーション図ですと、「4-4-2」になっています。これは、どうなんでしょう?

堀江 攻撃時は「4-3-3」ですね。

――「4-3-3」の中盤が逆三角形のシステムですね。左サイドバック(SB)のジョルディ アルバ選手が高い位置を取る。アルバ選手が上がれるのは、アンドレス イニエスタ選手が中に入るのと、FWのルイス スアレス選手が、バイタルエリア内でプレーするからです。TVの「4-4-2」のシステム図は、守備の時に当てはまるもので、バルサは「4-4-2」になって守ります。守備の時に、イニエスタ選手、イヴァン ラキティッチ選手、ブスケツ選手と、右ウイングのウスマン デンベレ選手の4人が並ぶ形になります。

堀江 スアレス選手は、基本は外に開くのですが、ボールを受ける際に中に入るやり方をします。

――今季は、左SBのアルバ選手が高い位置を取って攻撃参加しますね。

堀江 ネイマール選手がドリブルを得意としていたので、アルバ選手がこんなに高い位置でボールを持つことはありませんでした。デンベレ選手が29分に負傷退場して、左ウイングがジャラール デウロフェウになりました。

――最初は右ウイングだったけど、しばらくして左ウイングにポジションチェンジしましたね()。

報道では試合中にメッシ選手がデウロフェウ選手に、右サイドから左サイドへ行くように指示をしたとのこと。

堀江 ヘタフェは自陣に引いて「4-4-2」のブロックを作るので、攻撃に人数を掛けないと4枚のDFと4枚のMFのブロックは崩せないですから。そういう判断があって、アルバ選手が特に高い位置を取ったと考えられます。

――なんだか、昔の……、ベップ時代のバルサを見ているようでした。引いてメッシ選手がボールをもらいにきて、ポストになる選手がいろんな選手になっています。スアレス選手だけではなく、ラキティッチ選手もポスト役になります。そこは面白いなと。

堀江 スアレス選手も降りるタイミングがうまくなってきたのです。新監督のエルネスト バルベルデが練習させたんでしょうけど。

――バルベルデ監督のスペインでの評価はどうですか?

堀江 もともとはビルバオ出身です。バルサでプレーしたことがあるんですが、外から来た人なので外様大名のような扱いですね。なかなか、バルサの監督になって苦労しているみたいです。監督として評価は高いですよ。戦術的なレベルが高い。1部リーグで経験を積んできたからですね。バルサは、1部リーグでも特殊なクラブです。サッカーでも文化面でも、相当なプレッシャーがあって、スポークスマンとしてのメディア対応など、そういう意味で苦労している。普通のクラブとは違う能力が求められるので。

――バルサはリーグ戦3試合、CLのユベントス戦も含め、ヘタフェ戦まで無失点でした。

堀江 本当に強いチームと当たってないというか。第1節から見て、レアル・ベティス(2-0)、アラベス(2-0)、RCDエスパニョール(5-0)ですから。確かにユベントスには勝ちましたが、相手の主力メンバーがケガで不出場でした。まあ、チームとして謙虚になったことが大きかったのでは。スーペルコパ()で、レアル・マドリーにボコボコにされて。

8月13日に行われた第1戦は1-3でR・マドリーの勝利。8月16日のセカンドレグも2-0でR・マドリーが完勝を収め、5年ぶり十度目の栄冠を手にした。

――ああ、確かに。あれは、悲惨だったですからね。ジェラール ピケ選手がペナルティエリアで相手に振られて転びそうになって、全く太刀打ちできなかった。

堀江 そのピケ選手が試合後に「ヨーロッパでナンバーワンのチームだったと思っていたが、初めてR・マドリーよりも自分たちが劣っていることを実感した」とコメントしたほど、彼らにはショックな敗戦でしたから。それで、チームがまとまった感はあります。「自分たちが頑張らないといけない」と思わせたのでしょう。

――バルサの攻撃はどうですか?

堀江 去年よりも戦術的に整理された印象を受けました。

――それは、どういう点ですか?

堀江 スアレス選手の下りてくるタイミング。それから、メッシ選手はよく守備をサボるんですが、それでも見ていて守備のサボりが少なくなった。あと、SBが強化されたので、アルバ選手をずっと使わざるを得ない状況から、ネルソン セメド選手やアレイクス ビダル選手が入ったことで、SBの穴が埋まってきた。ビダル選手は攻撃面に課題があるものの、守備面でのオプションとして十分に使えます。それに、SBにはリュカ ディニュ選手もいます。監督が新しいので、チームがピリッとしていると思うんです。守備のサボりが少なくなって、規律が戻ってきていますね。

――昨年は移籍していた選手で、アルダ選手は使えなかったですからね。

堀江 アルダ トゥラン選手ですか。もう彼の居場所はないですね。

――ラフィーニャ選手もケガで出場できない。

堀江 ラフィーニャ選手はケガが多いですね。

――昨季と今季で、バルサの違う点はどこですか?

堀江 ネイマール選手の移籍は痛いですが、その分、中盤が強化されましたね。パウリーニョ選手がある程度使えるという、計算がたちました。デニス スアレス選手も結果を出して今季は行けそうです。戦力が充実したことが大きいです。

――ハビエル マスチェラーノ選手がベンチにいますからね。監督はサムエル ウムティティ選手を使いたいようです。中盤でマスチェラーノ選手を使うにしても、ブスケツ選手かラキティッチ選手を外すことになる。ラキティッチ選手は、攻守面において実際はバルサのキープレーヤーだからね。

堀江 メッシ選手がサボった時のフォローをラキティッチ選手がしています。ブスケツ選手はコンディションが戻ってきてますね。ただ、CLなど、連戦が続く時の選択として、マスチェラーノ選手がピボーテやCBをやる。チームにとって必要な選手ですが、それでもベンチにいるのを見れば、それだけ、今季は選手層が上がったんです。

――マスチェラーノ選手のピボーテ。ピボーテはセンターハーフ(CH)になるんですよね。マスチェラーノ選手がピボーテをやった時のイメージがあまり良くはないです。

堀江 僕もいい印象がないんですが(笑)、試合に出さないと選手のコンディションが崩れてしまうので、どこかで使わないとならない。使うとしたピポーテかCBになりますね()。

9月19日の第5節・エイバル戦でマスチェラーノはCBで出場した。試合は乾貴士選手のいるエイバルに6-1でバルサの勝利に終わる。

フロントが選手の獲得にことごとくミスって、昨季獲得した選手でスタメンを取れているのは、ウムティティ選手だけなんですよ。いくらお金をドブに捨てたんだ、という話になっています。

――バルサの攻撃にはいくつかパターンがあります。

堀江 何個かパターンがあります。メッシ選手かスアレス選手が中盤に下りてきて、空いたスペースを突いて相手の守備ブロックが崩れたところを狙っていく。ベップ時代からコンセプトはほとんど変わっていないんです。選手たちの守備に関する精度がどんどん上がってきた。それに、新しい監督になって規律が締まってきている印象はあります。選手が少しでもサボったら、例えばデンベレ選手の場合でもデウロフェウ選手に交代させられる。

――パウリーニョ選手は、獲得する際に酷評されていましたが、彼は体が強い。当たり負けない。そういう選手がバルサにいないので、意外と面白い存在になるかもしれませんね。

堀江 確かに、バルサにはいないタイプですね。まだチーム戦術を理解して動いてはいないんですが、これから改善させるんでしょう。ただし、彼の個人戦術は高いので、ヘタフェ戦のように空いているスペースに走り込んで、ボールを受けて相手DFを押しのけてもゴールを決めていく。その能力は、今後期待できますよね。

――先ほど、スアレス選手の下がる動きを指摘されていました。もっと詳しく説明してください。

堀江 スアレス選手の動きのことですね。話はCLのユベントス戦になるんですが、スアレス選手がポストになってメッシ選手がゴールを決めたプレーがありました。一気に裏を取ると見せ掛けて、ユベントスのディフェンスラインが下がった瞬間に、フリーになってボールを受けたんです。いままではそういうプレーをしなかったので、進化した印象を持ちました。

もともと裏に飛び込むプレーをする選手だったんですが、ディフェンスラインの動きによって、足を止めてボールの起点になるプレーをするようになった。「偽の9番」の動きなんですが、今季になって、さらにうまくなっています。もともと、スピードや体の強さでボールをキープして決めていく選手が、頭を使ってボールを受ける場所を見つけていける。生まれ変わった印象ですよね。

そのほかに、バルサでの注目は、やっぱりネイマール選手の抜けた穴を、デンベレ選手とデウロフェウ選手のどちらが埋められるのかですね。両者でも埋められなかった場合、監督はどういう選択や手段を講じるのか。そこは、今季のバルサの見どころです。

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