石井紘人のFootball Referee Journal

【日本代表×韓国代表】最高クラスの審判がおかした大きなミス

知る人ぞ知る主審。
この試合の主審を務めたラフシャン・イルマトフは最高レベルの主審だ。
FIFA
クラブW2008の決勝の主審をはじめ、今年行われた2010南アフリカW杯でも開幕戦や準決勝の主審を務めている。
W
杯の開幕戦を務める主審は重要な役割を課されている。

大会の基準を示すというのはもちろん、そこで誤審をすることにより、審判団への不信感を持って大会がスタートしてしまうからだ。

FIFAはメディアの報道には凄く敏感らしく、開幕戦の割り当ては決勝並みに気を使っているようだ。ゆえに、イルマトフ氏と同様に、開幕日のカードを割り当てられた西村雄一氏が決勝トーナメントに進んだのは当然ともいえる。 そんなイルマトフ氏がこの試合の主審を務めるというのを見て、安心した。正直、アジアのレフェリーのレベルは発展途上中だから。

1
分、韓国選手の本田に対する背中へのチャージをボールにプレーできているということで流したのを見て、かなりタフな基準になるように思えた。が、そうではなく、このギリギリのプレーを流したことで、選手に‘簡単にファウルはもらえないぞ’という意識付けをさせたようだ。


レフェリングも意識してご覧になられた方はすぐに気づいたと思うが、腕を使ってプレーしている場合でも、それ程影響していないと判断したものは流していた。これも選手にファウルを貰おうとさせないためではないか。

逆に2分に相手を引っ張った駒野の(直後にも似たような)ファウルをとったように、あきらかに影響したものは不正使用としてファウルとしていた。

これを選手も理解し、ことあるごとに‘腕は使ってないよ’と両手をあげてチャージしていた。

とはいえ、ボールにプレーできる範囲外のチャージはしっかりととっていく。この基準がいき、試合はスピーディーでタフな展開となった。
11
分、ロビングのようなボールを駒野がクリアしようとした所にイ・チョンヨンが遅れて体に競りにくる。当然ファウルだが、カードはなし。無謀にもみえたし、せめて注意はあっても良いシーンではないだろうか。 

30分、競り合う際に腕で押した遠藤のファウル。31分にも裏からチャージした遠藤のファウルもしっかりとったように、ボールにプレーできていなければしっかりとり、逆に32分や34分のシーンのようにボールにプレーできているものは流す基準で試合は進んでいく。
35
分にも駒野のシーン同様に栗原に遅れて競りにいったパク・チュヨンに厳しく笛を吹く。

40分にPA内でこぼれ球に反応した前田のトラップ時、手に当たったと韓国選手はアピールするが、当たったかも微妙だし、なによりハンドリングが適用されない要素があった。
<手に当たる=ハンドリング>と反射的に声があがるが、

【手や腕を用いて意図的にボールに触れる行為はボールを手で扱う反則である】主審はこの反則を見極めるとき、次のことを考慮しなければいけない。
●ボールが手の方向に動いているのではなく、手がボールの方向に動く。
●相手競技者とボールとの距離(予期していないボール)。
●手が不必要な位置にある場合は反則である。
●手に持った衣服やすね当てなどで(もしくは投げて)ボールに触れることは反則とみなされる。

以上のことをふまえると前田のシーンはハンドリングではないといえる。

さて、試合のほうだが、荒れた芝、さらには韓国の強固なブロックもあり、さすがにアルゼンチン戦のように縦に縦にとはいかない。それでもアルゼンチン戦がフロックではないことを日本代表はみせる。組織だった守備や、無駄にボールを蹴らないという意識のみえるポゼッション。なんとなくだが、ザッケローニ監督が目指すフットボールが見えてきた。

そんなエキサイティングな試合に一役買ったのがイルマトフ主審であるのは間違いない。

45分、前田のドリブルを引っ張り続けて止めたシン・ヒョンミンに警告。後半に入ってからもすぐに前田へのホールディングをとったように、試合が荒れないようにしっかりとファウルをとっていく。 65分の長谷部のファウルは、ボールを奪われた後に、勢いあまって相手に体当たりする格好になったため。その前にドリブルする長谷部が腕を掴まれているが、影響していないと主審は判断したのだろう。その判定どうこうよりも、日本人選手がファウルのようなチャージを受けながらも影響していないと判断される。

フィジカルが弱いと言われる日本選手たちだが、中田英寿氏や本田をはじめ、環境次第ではフィジカルも世界基準までいけるという証明のようなシーンだった。

 

迎えた77分、大きな判定が起こる。
長谷部が‘らしい’ドリブルで中央を切り裂くと、松井に絶妙なスルーパスを送る。ファーストタッチさえ上手くいけば決定機というシーンだったが、トラップが乱れたため、松井は中央へのクロスを選択。このクロスが両手を広げてジャンプした韓国DFの手にあたった。

競技規則をもとに、このシーンを振り返って欲しい。
手は不必要な位置にあり、松井のクロスは予期できないボールではない。私は間違いなくPKだと思う。
では、なぜPKにならなかったのか。
イルマトフ主審のポジショニングを見ると、争点の死角に入ってしまっている。あの位置からだと、腕を広げたのが見えず、肩に当たったように見えたのではないか。もう少し中側か、外側にいれば。最高クラスの主審らしくないミスだった。

確かにイルマトフ主審はミスをしてしまった。
しかし、だからといってイルマトフ主審が低レベルな主審だとは思わない。試合全体を振り返れば採点:4クラスのレフェリングだったし、なによりイルマトフ主審の基準があったからこその試合でもあった。

日本代表に敗れたとはいえ、アルゼンチン代表への信頼が揺るがないように、ひとつのミスで今までの評価を覆すのは、フットボールではない気がする。イルマトフ氏がまた日本代表戦の主審を割り当てられても、私は今日の試合前同様に安心して試合を見られる。

■主審:イルマトフ(ウズベキスタン)
 採点:1

~採点基準~
5:
彼なしに試合はありえなかった
4:
普通に試合を終わらせた
3:
ミスにも見えるシーンがあったが、試合に影響はなかった
2:
試合に影響はなかったかもしれないが、カード・得点に対する微妙なシーンがあった
1:
ミスから試合の流れを変えてしまった
0:
試合を壊してしまった

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ