石井紘人のFootball Referee Journal

2014ブラジルW杯アジア3次予選 北朝鮮×日本 シュクララ主審評

■主審:N・シュクララ(バーレーン)

 

 

君が代が流れている間、スタンドはざわめきにつつまれていた。国交もなく、かつ国家間で様々な問題を抱えているだけに、当然なのかもしれない。それでも、国歌斉唱や相手国メディアを拒否することは許されない。なぜならば、フットボールは世界共通であり、世界共通のルールの下に行われるからだ。それこそが、フットボールに国境はないといわれる所以だろう。

だからこそ、そのルールを委ねられた審判員は重要な意味を持つ。

 

予想通り、立ち上がりから北朝鮮がアグレッシブに前に出てくる。

2分、ひっかけられたファウルをしっかりとる。3分にも同様に細貝のファウル。直後には上に乗るように競った北朝鮮選手に注意を与える。会場の雰囲気を考え、丁寧にレフェリングしていく。9分にも、足の裏をみせて今野のチャレンジしたファウルもしっかりとったように、しっかりとしたレベルのレフェリーというのが伺える。14分、腕を広げて競ったチョンに警告。一方で、18分のようなファウルを貰うプレーに欺かれない。

22分、栗原がPA内でパクに対してホールド気味にディフェンスをするが、パクが影響を受けるものではないとしてノーファウル。今日の基準は、このようなプレーは簡単にはファウルにならない。24分の壁のマネジメント、さらに両キャプテンを呼んで注意を与えるなど、大きな判定が起きないようにレベルの高いコントロールをしていく。36分の左サイドからの突破とクロスを見極めるための、左から中央を見る走りも素晴らしい。38分のGK西川の体に競ったファウルの見極めなど、安心して委ねられるレフェリングで試合は進む。フットボールコンタクト、影響を受けたかギリギリのものはとらないが、足や競り合いなどのファウルチャージはしっかりとる。 53分には2m以上離れずスローインを邪魔したジョンに警告を与える。空気を読まない“審判員らしい”毅然とした判断だ。

 

迎えた57分、大きな判定が起こる。

パクに足を踏まれた格好になった前田が怒りをみせると、14番のパクも応戦。すると、すかさず会場の後押しを受け、北朝鮮選手がなだれこみ、一触即発に。

ここで、最高クラスの介入をシュクララ主審がみせる。

まずは間に入り、両チームに審判の存在を意識させる。そして、前田を遠ざけ、事態の収拾を試みる。そして、落ち着いた所で両者に警告を与える。試合を壊さなかったポイントとなるマネジメント、審判がピッチに存在する意義が感じられた。69分、細貝を裏からひっかけたパクに警告。70分のロールバックの争点の示し方もわかりやすい。シュクララ主審は、試合のテンションを考え、前半以上に基準を厳しくする。

77分、ボールにいったものの、足の裏を見せて勢いをつけて【無謀な方法】でスライディングタックルしたチョンに警告。二枚目で退場に。『安全に、公平に』というルールの精神が施行されている。

90分には遅延行為でリグァンチョンに警告。905分にも遅延行為で警告。日本はパワープレーで打開を試みるが、最後までらしい形を作れなかった。ザッケローニ監督は「北朝鮮は警告をもらってまで勝とうとしてきた」と表現したが、確かにそういった現象はあった。ただ、01という結果は妥当で、文句をつけられないレフェリングだったのも事実。北朝鮮は、そういったファウルの代償で退場もしているし、決してACLのようなラフな試合ではなかった。

相手以上に、日本の課題、ハイプレッシャーに対する脆さが出てしまったのが敗因だと思う。今野や岡崎もそれを痛感していたようだ。

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