石井紘人のFootball Referee Journal

無料:寝るだけでダイエット?実は健康の基本は睡眠?その理由と何時間寝れば良い?

睡眠、特にレム睡眠を脳機能評価手段の一つとして捉える臨床的な試みに長年取り組まれている神山潤先生を取材した際のレポートになります。

ナイスプレーのために親からはじめよう!睡眠改善のススメ【前編】

ナイスプレーのために親からはじめよう!睡眠改善のススメ【後編】

■7-8時間睡眠 がベストな訳ではない

神山先生への取材で一番印象に残っているのは、ベストな睡眠時間は人によって違うということです。

BMI(メタボリックシンドローム:内臓脂肪型肥満に高血糖・高血圧・高脂血症のうち2つ以上を合併した状態)の数値と睡眠時間でグラフを作ると、世界中のどんな国、どんな年齢層でもほぼ同じ線ができるのですが、

その谷型のグラフで最も体に良さそうな睡眠時間が

7-8時間睡眠

なのです。

その結果をメディアが「7-8時間睡眠がベスト」と大々的に報じたため、日本では「7-8時間睡眠」が推奨されてきた訳です。

ただ、谷型のグラフということは、中には5時間の睡眠で十分な人も、9時間の睡眠が必要な人もいるということです。

神山先生は自身のベストの睡眠時間を試すことが必要だと教えてくれました。

「私の知人で高齢の方がいるのですが、仕事の関係上、長年に渡り夕方に起きて、朝まで働くという夜行性の生活をしていました。それでも未だに元気ですよ。それは彼の体の“慣れ”がそうさせているわけですよね。」

ただし、どんなに良い睡眠をしても、14時頃は基本的に眠くなるそうです。

■寝貯めなんて出来ない

「“寝溜め”の効果はありません。それは睡眠の借金を返すということになります。平日寝ないで借金が溜まったとします。そうなると利子がつきますよね。休日にその分を支払おうとして寝ても全額は返せません。8割返せればいいというところでしょう。どんどん利子で借金は増えていくばかりですから、借金しないことが大事です。もちろん、睡眠の貯金もできません。」

日本人の睡眠時間の短さは、いまや世界中を見渡しても韓国と並んでトップクラスになってしまっています。まずは、睡眠時間改革から始めてみませんか?

 

■「昼間(11時頃、15-16時)にひどい眠気に襲われる」

神山先生のもとに、47歳男性は一流企業のビジネスマンが相談にきました。

起床は5時30分から6時、目覚めは良くありませんが、頭痛・気分不快はないとのことでした。朝食はとり、通勤は1時間。デスクワーク中心で、昼は外食。午後も同様の仕事で退社は20-21時。退社時にそば等を食べ、22時過ぎの帰宅後、サラダ、豆腐、納豆等を食べます。就床は0時過ぎ、とのことでした。

いわゆる一般的な社会人の生活です。

■無呼吸が治れば、昼間の眠気はなくなるのか?

それは難しいようです。

改善策は一つ。

「まずすべきはもう少し寝ること」とのことです。

「仮に無呼吸があって、その為に眠気が生じていたとしても、この睡眠時間では眠くなって当然と思います。疲れないと眠れませんよね。昼間身体をもう少しいじめませんか?会社ではエレベーターを使わないようにするとか、通勤の時一駅前で降りて歩くとか」・・・

■睡眠時間が減ると何が起きる?

まずはsleep disorders (睡眠関連疾患)の国際分類の中の睡眠不足症候群の症状です。

「睡眠損失の慢性化や程度によって、怒りっぽさ、注意や集中力の障害、覚醒状態低下、注意散漫、意欲低下、無反忚、精神不安感、疲労、落ち着きのなさ、協調不全、不定愁訴を発現することがある」

連続17時間起き続けていると、課題対忚能力が酒酔い運転レベル(血中アルコール濃度0.05%)に匹敵することになる、という研究結果もあります(Dawson A, Reid K, 1997)。

■睡眠時間を制限すると仕事のクオリティは下がる

(Van Dongen HP ら、2003)

まったく眠らないグループ、1日の睡眠時間を4時間、6時間、そして8時間にしたグループという合計4つのグループに分け、定期的に決められた作業をさせたところ、作業における間違いの数は、睡眠時間が4時間のグループでは7日を過ぎると、睡眠時間ゼロのグループがまる2日ないし3日眠らなかったときと同等のレベルにまで増えた、と言う結果でした。また睡眠時間が6時間のグループでも、9日を過ぎると、睡眠時間ゼロのグループがまる1日眠らなかったときのレベルにまで、作業における間違いの数が増えたのです。眠りを十分にとらないと作業能率は低下する、といえそうです。

ドイツのリューベック大学のグループ「ひらめき」にも眠りは重要というレポートを掲載しています。

■日本が生んだ国際語“カロウシ”

スキーバスの事故が最たる例と言えるのではないでしょうか。これが起きた要因は睡眠時間でしょう。

また、西田泰氏らの平成7年度の科学技術振興調整費中間報告書によると、亣通事故全体の発生のピークは8時と17時にあるのですが、居眠り事故のピークは2-5時と14-16時に記録されています。

神山先生は

「ヒトには日に2回眠くなる時間帯(午前4時と午後2時がピークだろうが午前午後とも2-6時)があるのですが、居眠り事故のピークは見事にこの時間帯と一致します。そして当然ながら夜間の睡眠時間の短さは翌日の昼間の眠気の強さを助長します。睡眠不足が生理的な眠気を助長するのです」

と教えてくれます。

 

■睡眠不足が生む凶暴性

神山先生は下記のようなレポートも書かれています。

2010年9月15日付産経新聞によると小中高生の暴力行為が2009年度は6万1千件に上り過去最高となったそうです。暴力について、東邦大学の有田秀穁教授は「運動不足と昼夜逆転(太陽光受光減)でのセロトニン欠乏が問題」と2010年7月29日付産経新聞で指摘していますが、私は睡眠不足がもたらす前頭前野の機能低下がもたらす衝動性制御の欠如も一因ではないかと考えています。モンスターペアレントも増えています。

睡眠不足症候群の症状には「怒りっぽさ、協調不全」とありました。

利己的言動の背景にも睡眠不足があることを考えたくなります。いずれにしてもここで指摘した様々な社会現象は睡眠不足症候群の患者さんが蔓延した睡眠軽視社会そのものの姿なのではないでしょうか。多くの日本人が善と信じ、走った結果辿りついた睡眠軽視社会は決して快適で住みやすい社会とは言えないのです。実に哀しい現実です。

 ■人間も動物

食事をしないと、体が弱り、やがて死ね。睡眠が足りないと、四日程度で体が糖尿病と変わらない状態になる。まったく眠らないでいると、三日目から幻覚を見るようになり、やがて死を迎える。知性はわたしたちが生きていくのを助けてくれるが、わたしたちは知性を悪用することもできる。知性はその意味で便利な道具と同じだ。そしてわたしたちは、本能を動物的なもの、野蛮なものとみなしがちだが、本能は確実にわたしたちの生命を救う働きだけをする。本能は大いなる救済の知性であり、誰にでも備わっているものだ。だから、本能こそ知性の頂点に立ち、最も知性的なものだと言えるだろう。

■メタボよりも、「寝ないと太る」

下記は神山先生の提言です。レポートから抜粋します。

生活習慣が発症に深くかかわる疾患として、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などが生活習慣病としてあげられています。これらのうち糖尿病、脂質異常症、高血圧には背景にインスリン抵抗性(インスリンがその働きを充分に発揮できない状態)があるとの仮説に基づいて、1988年にシンドロームXが提唱されました。その後この3疾患に肥満を加え「死の四重奏」との命名がなされ、1998年にWHOがメタボリックシンドロームを提唱しました。日本肥満学会が2005年に提示したメタボリックシンドロームの診断基準では、腹囲男性85cm、女性90cm以上が必須で、かつ血圧高値(130/85mmHg以上)、脂質異常(中性脂肪150mg/dL以上またはHDLc40mg/dL未満)、血糖高値(110mg/dL以上)の3頄目中2頄目以上を満たした場合、とされています。

日本人の死因の第2,3位は心疾患、脳血管疾患でした。当然両疾患対策としてメタボリックシンドローム対策、すなわち肥満対策が日本では重視されているという構図です。そして皆さんにはすでに第17回で紹介した通り「寝ないと太る」のでした。

では厚生労働省のメタボリックシンドローム対策をみましょう。

2007年に発表された「メタボリックシンドロームを予防しよう」のHPの予防改善編には生活習慣を改善しよう、とあり、そこにある指示は、1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリです。睡眠、あるいは眠りに関する文言はこのHPにはありません。寝ないと太るにも関わらず、です。

■厚生労働省の方針に医師会もべったり

2007年6月15日発行の日本医師会雑誌特別号のタイトルは「メタボリックシンドローム up to data」です。さぞかし充実した内容で「寝ないと太る」の記載も当然あろうとページをめくりました。しかし眠りについての記載はなかなかみあたりません。

厚生労働省も医師会も国民に「寝ないと太る」を知らせたくないようだ、と前回指摘しました。しかし考えてみれば国民を寝かせたくはないという厚生労働省や医師会の方針もある意味当然かもしれません。

寝ることでメタボリックシンドロームが減ってしまえば、運動ジムや食品会社、さらには医療業界の事業に影響してしまい、関連業界からはお叱りを受けてしまうのかもしれないからです。

先日私の外来に50歳のキャリア―ウーマンが眠れない、とおいでになりました。外資系企業に長年勤続されている。仕事が終わるとジムに向かう。調子に乗ると23時頃まで複数レッスンをこなすこともあるそうです。23時まで身体を動かしていては亣感神経系優位の状態がその後もしばらく続いてしまいます。

ヒトは寝て食べて出して初めて脳と身体がベストパフォーマンスとなる昼行性の動物であるにもかかわらず、これ等のバランスを失った結果の「眠れない」と言えます。同様な例は食でもあります。いわゆる健康食品、サプリメントに夢中になる場合です。寝ること食べること出すこと身体を動かすこと、頭を使う事はすべて連動しているのでどれか一つのみを追求しても決して望ましい全体像は得られないのです。

東京ガスの研究者が最近興味深い研究成果を発表しています(Nishiura Cら、2010)。40歳代と50歳代の肥満のない男性2632人を対象とした4年の間隔をおいた質問紙による追跡調査の分析結果です。これによると、4年後に肥満となる危険は、睡眠時間が6時間未満の方が4年後に肥満となる危険は睡眠時間が7時間台の方に比べ2.55倍であったというのです。まさに「寝ないと太る」わけです。そして一層興味深いのは、この太る危険は食事に関する注意(脂っこい食事を好む、朝食抜き、間食、外食)を行っているか否かという点を考慮に入れても、睡眠時間が6時間未満の方が4年後に肥満となる危険は睡眠時間が7時間台の方に比べ2.46倍であったというのです。つまり、脂っこい食事を好む、朝食抜き、間食すること、外食することは睡眠時間が短いことほどには肥満に影響しなかった、と結論しているのです。

 

■結論

私が神山先生に取材してたどり着いた結論は「寝ないと太る」。そして、寝る時間は自分のベストを探す。そして、14時前後は誰しも眠くなるのだから、昼寝をしちゃいましょう。

ちなみに私は、10時前後と14時前後に睡魔が訪れることが多かったので、

10時に起床する生活にしました。寝る時間は日によりますが、23時以降で眠くなった時にしています。そして、14時から16時の間で眠くなった時に、昼寝をしています。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ