石井紘人のFootball Referee Journal

【石井紘人レポート】J リーグ担当審判員合同研修会(トレーニングキャンプ)

毎年、宮崎や鹿児島で行われていた『J リーグ担当審判員合同研修会(トレーニングキャンプ)』。今年は、清水ナショナルトレーニングセンター(J-STEP)で行われた。

今年は場所だけでなく、審判指導者側にも変更があり、このトレーニングを引っ張ってきた上川徹が審判委員長になったため不参加に。代わりに、黛俊行が初参加となった。

トレーニングは、毎年同様に3ブロックに分かれ、ローテーションで回る形式となった。

 

○小幡真一郎ブロック

センターサークル付近で行われている四人のパス回し(鳥かご)の中に、主審二人が入り、ボールが当たらないようにステップで避けていく。

そこから、ペナルティーエリア手前に入ったクサビから起こる競り合いを主審二人、そして副審で見極める。

そして、見極めた主審は、ゴール裏を回り、ランニングで鳥かご地点まで戻る。

このトレーニングは毎年行われていたが、鳥かごからのダッシュ+判定後のランニングというフィジカル的要素がプラスされている。

 

 

○廣嶋禎数、黛俊行ブロック

ピッチ右サイド、副審サイドに出てくるスルーパスに対する副審のオフサイドの見極め。ボールを受けた選手が右サイドからPAに突破する際の、審判チームでのファウルの見極め。さらに、主審がどのポジショニングをとるか。

このトレーニングも毎年行われているが、こちらもフィジカル的要素が追加された。

まず、判定をする主審のスタート地点は、争点となるゴール裏から。そこから徐々にスピードをあげていった所で、副審サイドにスルーパスが出る。

いつ開幕してもOKなくらい体を作っておかないと、ついていけなくなるトレーニングだ。

また、昨年と違うのは、主審が副審を、副審が主審を務めたことだ。「この角度は、やっぱり副審に委ねないと」「意外と副審サイドからもここは見えないな」など、副審をやった上での議論が行われていた。

 

 

○岡田正義ブロック

センターサークル付近でラダーをやった後に、ゴール前に向かって走る。アタッキングサード付近に3つランプが置かれており、主審はその3つの内、光ったコースを通り、争点に向かう。

争点は44PA近辺での判定をするというものだ。

 

 

 

今年はとにかくフィジカルがハードだった。後ほどフィジカルトレーナーである山岸貴司のインタビューを掲載するが、これは意識されてのものでもある。

ここからは私の見解だが、多くの審判員が、山岸が就任した一年目が一番厳しかったと言っていた。山岸自身も、そう語っている。

が、私は今年と一年目はそこまで変わらない強度だったと思う。

にもかかわらず、今年のトレーニングに対し、今年が一番厳しいという声があがっていない。吉田寿光のように、良いコンディションでシーズンに臨めるという声があるくらいだ。

なぜか?

私は、審判界が変わってきたのだと思う。

山岸が最初用意したアスリートと同じ基準に、ほとんどの審判員がついていけなかった。

そこで、山岸は、審判員と選手で求められる資質が違うとハードルを下げた(実際に違う部分もある)。

ただ、今年のトレーニングを見ていると、その「審判員として必要な資質」を、選手と変わらないくらいのアスリートとして必要な強度で伸ばそうとしている。

それに対し、参加した審判員たちも、山岸が就任してからの期間で体が徐々に慣れてきており、対応できるようになった。

 

 

また、このように合宿を行うなかで、リーダーシップという、試合をコントロールする上で、審判員に有利になるような要素も伸びているように思える。

今年のトレーニングに、西村雄一や家本政明は不在だった。

そこでリーダーシップをとっていたのが、飯田淳平や村上伸次、さらには「俺はそういうタイプではないから」と言っていた吉田寿光だった。

 

村上は声を出して練習を盛り上げ、吉田はクールダウン時に若手と走りながら談笑していた。

飯田は、上川が抜けたこともあり、おとなしいインストラクターの代わりに、

 

「ファウルでFKという判定はあっている。けど、そこは、PKFKかのラインがギリギリでしょう。だから、先にPKだというのを示して、その後にカードを出した方が分かりやすい」

などと指導を行っていた。

また、廣嶋に議論もなげかけ、「主審と副審が指し違いをした時に、副審側がどこまで介入すべきか」など侃侃諤諤と意見を戦わせていた。

 

 

そんな彼らが、いつかインストラクターになる。日本の審判界の未来は明るいと思えたトレーニングでもあったし、今季、判定に関して昨季のような混乱がないのは、偶然ではないと思う。

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