石井紘人のFootball Referee Journal

無料:ジュビロ磐田×ヴィッセル神戸のハンドリングが見極められなかった理由と「FIFAはバッジオが手に当てて獲得したPKは誤審としている」【レフェリーブリーフィング中編①】

今回の隔週コラムレポートは、先日行われた日本サッカー協会(JFA)審判委員会『2017 5 JFA レフェリーブリーフィング』を全文掲載する。

 

上川徹JFA審判委員会副委員長「皆さん、こんにちは。お忙しい中、お越し頂きありがとうございます。今回で5回目ですね。競技規則への理解は、おそらく高まっているのではと。今日は18シーンを皆さんと振り返らせて頂き、レフェリー側の考えも共有させて頂ければと。その18シーンも、我々もここで使うシーンは目的を持って実施しないといけないのかなと。その中で、ここ何節かシーズン終盤を迎えて試合が激しくなるのは当然だと思いますし、その中でプレーではなく、流れで見ればプレーなのかもしれませんが、プレー以外のところで起きている退場に値する行為がいくつか見られます。この後にはクラブにも流すので、みんなで共有して貰えればなと。あとは、ここで出すというのは、我々レフェリーがそこに目を光らせていることを伝えたいと思います。

あとはペナルティーエリア(PA)内での事象ですね。ハンドのケース、あるいはPA内でのチャレンジを取り上げて、最後にはオフサイドについて進めさせて頂きたいと思います。

では、まず乱暴な行為や侮辱的な行為。日本のサッカーをよりフェアで、価値あるものにするために、熱くなるのは分かりますが、ぜひリスペクトして、やめてほしいという意味でも取り上げております。

最初ですが、

J119節川崎フロンターレ×ジュビロ磐田64分の判定も選手やサポーターには伝わらなかった。頭の横をくるくる回すジェスチャーを川又に行ったエウシーニョに警告(参考記事:川崎フロンターレエウシーニョの警告は川又の挑発?)。

試合も5-1でほぼ決まっています。その中で起きます。大きな対立にはなりませんでした。ただ、やはりこのジェスチャーは認められるものではないですし、場合によっては侮辱的な行為として大きな問題になりかねないです。レフェリーは見ていましたが、その前の二人の関係を踏まえ、(エウシーニョに対しては)退場ではなく警告の対応をしています。

ただレフェリー側には、挑発しているのであれば、20番(川又)には警告、このジェスチャーをした選手(エウシーニョ)には退場を示すのが適当であると伝えました。試合の温度もありますが、このような行為を子どもたちが真似する危険性もあります。

次ですけども、

J120節柏レイソル×ヴィッセル神戸の67分。神戸の田中に対し、柏の手塚が後ろからスライディングタックルを仕掛け、その後に転倒した手塚を田中が右足で蹴ってしまう。

皆さんご意見を。イエローかレッドかですよね。」

 

―どちらに対してでしょうか。

 

上川「良い質問ですね。では先に、どのように思われますか?

実際の試合では、レフェリーは乱暴な行為で(田中を)退場にしています。黄色の選手にもイエローが出ています。見ようによっては(後ろからスライディングした手塚の)アキレス腱を踏む行為はレッドカードかもしれませんが、イエローカードを示しました。ただ、イエローカードでも充分に受けいれられるオレンジの判定です。

乱暴な行為ですが、ボールはここですよね。反則をされたことでエキサイトしてしまうのは分からなくもないのですが、強い力で相手を蹴っているのはあきらかです。

ちなみに、直接FKはどちらからでしょうか?」

 

―先にファウルしたチームがファウルをとられるのではないでしょうか。

 

上川「そうですね。臙脂色のチームのリスタートです。同時にファウルが起きた訳ではありませんので、先にファウルをしたのは黄色なので、臙脂色からのFKです。

では次です。

J121節ヴィッセル神戸×鹿島アントラーズの26分。鹿島のレアンドロが46のボールで腹部を蹴る恰好になった。そのファウルにエキサイトした神戸の藤田が詰め寄ると、レアンドロは頭で藤田の顔を押し返してしまう。

まず最初に11番が足を上げて相手の腹部あたりを蹴っています。このファウルに対し、選手が詰め寄り、対立となります。この時の白の選手の行為です。皆さん如何でしょうか?レッドという意見が多いようです。

すごく強い動きではないかもしれませんが、頭で相手の顔にいったこと。顔は危険な部分です。ボールのないところでそういった行為をするのは認められないし、レッドカードが必要な場面と考えます。

臙脂の(藤田)選手はどうでしょうか?」

 

―(笑)

 

上川「この選手も、寄って来なければこんなことは起きていません。臙脂の選手にもイエローカードが必要です。挑発したと考えられます。

実際の試合では、レフェリーは白の最初のファウルがラフなプレーということで、警告を示し、その後の行為はどっちもどっち(でフィフティとした)。臙脂が寄って来なければいいし、白の選手もそれほど強い力で相手を打った訳ではない。どちらかと言えば、大げさに倒れたと考えて、その行為に注意のみとしました。

ただし、それではサッカーを守れないし、明らかに顔を打っているので、白は退場で臙脂にはイエローが必要だと思います。」

 

―最初のお腹のファウルにイエローを出して、その後でレッドが正しい?

 

上川「そうなります。」

 

―レフェリーの後ろから臙脂の選手が挑発に行くのですが、レフェリーはもうちょっと早めに介入できませんか?

 

上川「非常に良いポイントだと思います。レフェリーにもそこは聞きました。

レフェリーが言うのは、この映像を見てもわかるのですが、この時点では何もないんですね。急に温度が上がったので、レフェリーもそこまで感じられなかったと。でも、おっしゃるように反則の質とかを考えれば、結構ベンチ前って温度が高くなりやすいんですね。ベンチからの声もありますし。我々もそういった研修をしています。そういったことを考えると、急に温度が上がったという難しさはあるんですけども、反則の質を考えれば、ここにパッと入ってくる。この選手の前に立っておけば14番の選手が近づくような行動は防げたかもしれない。

次ですが、

J232節アビスパ福岡×愛媛FC、後半アディショナルタイムにクロスが上がる直前、ファーサイド側で愛媛の深谷に対し、福岡のウェリントンが腕を振って顔面に当ててしまう。

ここを見ていてください。残念ながらレフェリーは確認できていません。難しいですよね。ボールはサイドにあって、レフェリーはここ(ボールが上がる瞬間のハンドリングなど)を見ないといけない。ボールとは関係ない所で起きている。

ここからクロスがあげられるのは十分に予測ができる。副審はオフサイドラインを見ないといけない。このポイント、ファーサイドまでは難しい。

フォースオフィシャルとファーストの副審が見える可能性はあるのかもしれませんけど、やはりこのプレーというのは、レフェリーの視野外で起きている事象です。Jリーグの規律委員会に図られて、青の選手(ウェリントン)は二試合の出場停止になりました。白の選手は出血しています。」

 

―話戻しましてジェスチャーですが、ジェスチャーの意味合いではなく、ジェスチャーをすること自体がカードという認識で良いでしょうか。

 

上川「ジェスチャーにもよりますよね。相手を侮辱するようなジェスチャーかの判断が必要になります。昔はレフェリーに対して、手で眼鏡を作り、“お前ちゃんと見てんのか”というジェスチャーもありましたが、そのようなことも認められませんし。そういった感じ方ですね。レフェリーからすると、それを退場にするのであれば、意図など説明を出来なければいけません。

Ray(参考記事:プレミアリーグのレフェリーとメディアの関係は?)、イングランドではこういったジェスチャーは?」

 

Ray「(最低でも)イエローかな。レッドもある。」

 

上川「ありがとうございます。では、次です。PA内の事象について。

J225節カマタマーレ讃岐×大分トリニータ戦、左サイドからのクロスが手に当たる。

PAの中なんですよね。PKと思われる方いませんか?」

 

―フランスW杯の時、バッジオがこれでPKとりましたよね?

 

上川「ありました。ただ、あれはFIFAは間違いだったと言っています。では、このシーンです。腕の位置はニュートラルです。そして、ボールがこのコースに飛んでくるのを予測するのも難しい。そういった点を考慮するとノーファウルです。

次は、

J123節ヴィッセル神戸×横浜Fマリノス戦。ウーゴ・ヴィエラのシュートがスライディングでブロックに入った藤田の後方の腕に当たる。

ノーファウルが多いですか?14番は、右方向にチャレンジしています。なので、もしかすると右方向に上がっている腕に当たっていればハンドリングかもしれませんが、左側の手は、スライディングした体を支えるためのものです。手は自然ですので、そう考えると、ノーファウルです。

J125節川崎フロンターレ×横浜Fマリノス戦で天野のクロスが谷口の手に当たる。

これは難しいです。レフェリーはノーファウルにしています。非常に良いポジションです。ですが、ハンドにも見えますよね。腕に当たった後に、腕が上にあがるんです。これで腕を上げているようにも見えてしまう(参考記事:ジェフ千葉×カマタマーレ讃岐)。

なのですが、もう一度見ると、腕が少し上がったようにも見えます。メディアの皆さんも、半々くらいに分かれたように、そうなるとレフェリーがどのような適用をするかです。これはレフェリーの判断に任せます。レフェリーが「距離は近くて、腕も不自然ではなかった。予測できるかも微妙」と考えて、ハンドをとらなかった。ハンドをとるのであれば、なんでハンドとしたのかを我々は聞きます。」

 

―不用意な位置に手があればハンドリングをとられても仕方がない訳ですよね。選手の技術的に、腕を後ろに組んだ方が良いのでは?

 

上川「我々からすると、このようにプレーしなさいというのは競技規則には書いていないんですよね。選手側がリスクを回避したプレーをする、ファウルとなる危険性があるから、それを回避しようとするプレーは選択して欲しいなとは思います。ただ、競技規則的には、腕の位置や距離や予測できるのかなど考慮すべき点でジャッジします。

でも国内でも、だいぶ腕を後ろに組んでプレーする選手は増えていると思います。

ジュビロ磐田×ヴィッセル神戸戦(参考記事:ハンドリングで退場にすべきだったジュビロ磐田アダイウトンのシュートブロックしたヴィッセル神戸渡部博文の行為を検証

これは問題になったシーンです。この映像で見ると、あきらかです。なのですが、いくつか技術的な問題があります。今流れた映像を見れば、担当したレフェリーも含め、皆ハンドだと言います。一つポイントなのが、白がキープしているんですね。レフェリーは次のプレーの予測をしている。なのですが、ここで白がボールを奪われてしまう。そのミスを予測できなかったので、一瞬、争点へのスタートが遅れてしまう。ハンドが起こる瞬間、結構なスピードで走っています。スピード上げれば上げるほど目がブレます。争点に早く近づければゆったりと見れる。レフェリーのポジションから見ると…

 

>>>ヴァンフォーレ甲府×川崎フロンターレの家長のPKなど続きはこちら

 

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