デイリーホーリーホック

【HHレポート】ボランティアグループ「Tifare」対談「ボランティアは楽しい!(前編)」(2012/9/24)※全文無料公開

水戸が誇れるものの一つにボランティアの存在がある。
ホームゲーム時、いつでも笑顔で迎えてくれるボランティアの方々。
彼らの存在なくして水戸の試合は成り立たないと言っても過言ではない。
そんな彼らが日頃どんな思いで活動を行っているのか。
そして、ボランティアが現在どんな状況なのか。
ボランティアグループ「Tifare」の代表の猪瀬義満氏と代表補佐の栗原賢二氏、そして、スタジアムDJでおなじみの寺田忍氏に集まっていただき、思いの丈を語ってもらった。

ボランティアは「M」がいい!?

――まず「Tifare」の成り立ちをお伺いしたいのですが。
猪瀬:元々「Tifare」という名前だったわけでなく、JFLの頃からお手伝いしていたボランティアの方々がいて、試合のたびに集まるという感じでした。ある時、クラブ側からボランティアの方々と運営についてやりとりをしたいという話がありまして。クラブとボランティアが一緒になって運営について話し合いをはじめたのがはじまりでした。
寺田:それまで個々で参加している感じだったのですが、グループでまとまって活動していこうということになったのが、その頃でしたね。
猪瀬:ある時、せっかくみんな集まっているんだから、打ち上げをやろうよとなった時、「もっと一体感を持つために何をしたらいい?」という話になったんですよね。そこで「ネーミングをつけた方がグループっぽくなるし、楽しくなるんじゃない」という意見が出たんです。それで、まず最初に名前を決めようということになりました。当時、いつも来ている方に提案していただいて、そこから投票をして決まったのが「Tifare」でした。それが05年だったね。
寺田:そうですね。
猪瀬:最初はコアなボランティアのことを「Tifare」と捉えられることもあったのですが、「Tifare」はあくまでボランティア全体の通称というか愛称みたいなもので、登録してボランティアをしているすべての人が「Tifare」なんです。はじめの頃はよく誤解されていましたね。

――「Tifare」はどういう意味なのですか?
猪瀬:熱狂的なサポーターという意味ですね。
栗原:イタリアの熱狂的なサポーターを「Tifosi」というんですが、それと同じ意味の言葉みたいです。

――他のクラブもボランティアがグループ化しているところはあるのですか?
猪瀬:いくつか形がありますね。後援会がしっかりしているチームは、後援会の中にボランティア部会があるというケースがありますね。柏レイソルはそういう形です。ウチと近い形で行っているクラブが多いんじゃないかな。
栗原:リーダーを誰にするのかがなかなか決まらず、まとまっていないチームが多いですよね。(猪瀬氏を見ながら)ウチは絶対的なリーダーがいるので。
猪瀬:リーダーに決まったのは、飲み会の時だからね(笑)。いろんなポジションをやったことがある経験豊富な人にリーダーをやってもらおうと思ったら断られて、で、「年上なんだからやれよ」というような雰囲気になって僕がやることになりました(苦笑)。リーダーとして一番大事な仕事は飲み会の場所をおさえることや打ち上げやバーベキューの企画をすることだと思っています(笑)。
栗原:飲み会のセッティングをできることがリーダーに必要な資質だと思っています(笑)。
寺田:それは必要だね!
猪瀬:場所をおさえられなかったことは一度もないからね!
栗原:他のチームのボランティアもリーダーはいるのですが、飲み会のセッティングができなくて、人間関係を築けないというケースもありますね(笑)。
寺田:ウチはそれほど大きな組織ではないので、うまくできているのかもしれませんね。
猪瀬:こじんまりやれてますね。ウチだけでなく、他のチームも同じだと思うのですが、ボランティアの魅力って、高校生がいたり、定年されている方もいたり、世代関係なく人と付き合えることだと思っています。ただ一つ言えるのが、全員がクラブを応援しているということ。その応援のスタンスがボランティアという形だということですね。スタンドで応援するよりも、試合を作ることにやりがいを感じている人の集まりなんです。

――ボランティアの活動ってどういうことをしているのですか?
栗原:チケットのもぎりやマッチデープログラムの配布、座席案内。あとはお客さんから聞かれたことを分かる範囲でお答えするということですね。守備範囲はかなり広いですよ。サポーターズクラブの入会受け付けや総合案内に入ることもあります。

――どういう方がボランティアに向いていますか?
寺田:どういう方でも、クラブをサポートしたいと思っている方ならば、ぜひ来てもらいたいですね。試合前だけでもいいし、試合後だけでもいい。もっともっと水戸のために何かしたいと思う方は来てもらいたいです。どんなきっかけでもいいから一回入ってもらいたいですね。
猪瀬:ボランティアは「M」の方がいいね(笑)。
栗原・寺田:間違いない(笑)!
猪瀬:どんなに負けて辛い試合でも、俺たちは次の試合もその次の試合も同じことをやらないといけない。結果に左右されていたらテンション上がらないから。今日は悔しかったけど、次はみんなで笑おうねと思って活動しています。打たれ強い方がいいかな(笑)。
栗原:チームを好きじゃないとできないというわけではないと思います。いろんな年代の人と話ができるからボランティアをやっているという方もいますし、そこから少しずつチームを好きになってもらえればいいと思います。

――試合前と試合後だけでいいとのことですが、そういう参加の仕方もありなのですか?
寺田:ありですよ。
猪瀬:試合中ってあるポジションを除いてはそんなに業務はないんですよ。大変なのは会場づくり。今は前日に設営をしているのですが、そこだけ手伝いに来てくれる方もたくさんいます。当日は配布物やゲートの対応や掲示物を貼ったりなど試合前の準備がいろいろやることが多いのですが、一番大変なのは後片付け。若干拘束時間が長くなってしまいます。キックオフ4時間前集合、試合終了後1時間半ぐらいまで片付け。後片付けのころには体力が落ちているので大変なんだけど、勝った日は体が自然と動くね。
栗原:仕事が早い!
猪瀬:誰も疲れたとは言わない。負けた日は後片付け前の時点で疲れてる(笑)。
栗原:ガッカリしたお客さんを笑顔で見送らないといけないのが辛いですね。


※代表の猪瀬義満氏 【写真 米村優子】

水戸を経験すれば、どこに行ってもできる!?

――ボランティアをはじめたきっかけは?
寺田:僕は大学の時にアナウンスサークルに入っていて、その頃にチームからスタジアムの放送関係を手伝ってくれないかという話があって、それがきっかけではじめることとなりました。04年のことですね。僕は卒業したのですが、その流れで今も続けているという感じですね。

――大学卒業後も続けているのはなぜですか?
寺田:より水戸に対して思いが強くなっていったことが一番大きな理由ですかね。はじめた頃は鹿島アントラーズの方が好きだったんですよ。05年に就職活動をやりながら、ホームゲーム全試合DJを担当したんですよ。そこから徐々に使命感が芽生えてきてしまい、やりがいを感じてしまったんです。
猪瀬:水戸のDJは寺ちゃん(寺田氏)以外考えられないよね。

――寺ちゃんがDJをやってないと勝てる気がしないですからね。
寺田:それは間違ってますよ。実は僕がやらなかった試合は全部勝っているんですよ(涙)! 
猪瀬:寺ちゃんのサークルの後輩はすごくたくましくて、寺ちゃんの選手紹介を録音しておいて対応していたこともありますね。でも、「ゴール!」だけは言えないみたいですけど。いまだに放送関係は寺ちゃんの後輩たちが手伝い続けているんだよね。すごく助かっています。
寺田:大学のサークルの活動を続けるって難しいと思うのですが、これだけ続くってすごいことだと思いますね。
猪瀬:でも、毎試合数千人が集まる場で活動するってことはやりがいがあると思うんだよね。学生にとってすごくいい経験になりますよね。

――栗原さんは?
栗原:僕はスタンドの体感温度を上げたいという思いがあって、試合に勝てば自然と上がるのですが、それだけではなく、イベントで盛り上げたり、多くのお客さんに来てもらえれば、さらに盛り上がるんですよね。少しでもそこに貢献したいと思って、ボランティアをはじめました。でも、最初は具体的に何をすればいいのか分かりませんでした。クラブに対して企画書を出したり、意見を言ったりするのもいいのかもしれませんが、クラブもいっぱいいっぱいの状況だったので、せめて自分が試合当日にフロントスタッフ1人分ぐらいの動きをすれば、余力が生まれて、いいイベントができたり、手厚いサービスができたりするんじゃないかと思ってやってきました。
猪瀬:これだけは書いてもらいたいのですが、クリ(栗原氏)はJリーグ屈指のボランティアですから。
栗原:水戸を経験すれば、どこのチームに行ってもアドリブでできますよ(笑)。応用力が利くようになりますね。
猪瀬:クリは「ホリスポ」(ボランティア発行スポーツ新聞)を作ったりして、ネタを提供して楽しませてくれる。ちょっと熱すぎるところがあるんだけど(笑)、僕がだらけているから、こういう人がいないとダメなんだよね(笑)。
寺田:Tifareはバランスがいいですよね。
猪瀬:適当なリーダーをサブがフォローしてくれています(笑)。
栗原:フォロー大好きですから!

――栗原さんは元々サポーターだったのですか?
栗原:04年からスタジアムに足を運ぶようになって、05年にサポーターになって、06年の途中からボランティアになりました。トントン拍子に来ましたね。
猪瀬:クリの向上心は半端ないですよ。
栗原:できたことよりもできなかったことの方が記憶に残りますよね。どうすればもっとうまくできるようになるかなと考えてしまうんですよ。

――具体的に栗原さんはどういった活動をしているのですか?
栗原:ゲートのチケットもぎりやマッチデープログラムの配布や再入場対応、座席案内といったことをやっています。全体を見ながら、きつくなったところに自分が入ってという感じで、常にバタバタ動いていますね。

――猪瀬さんは?
猪瀬:サッカー協会に所属していた会社の上司に頼まれて担架の手伝いに来たのがきっかけですね。1回来て楽しくて、その後も何回か行くようになったんです。それから運営の手伝いもするようになって、03年からドップリはまることになりました。


※代表補佐の栗原賢二氏 【写真 米村優子】

スタジアムの運営は心が感じられないといけない

――ボランティアをやめようと思ったことはありませんでしたか?
栗原:しょっちゅう思います。
一同:本当に!?(爆笑)
栗原:チームが一人前になった姿を見るまではやめられない。
猪瀬:俺はないですね。だって、ゴールがないから。ホーリーホックがなくなったら終わるだけ。J1に上がろうと、ACLに出ても、関係ない。続けるだけですよ。
寺田:僕は1度だけですね。もうやめないと思う。
猪瀬:自分の地元にプロチームがあるってすごいことじゃないですか。サッカーはサッカーで盛り上がればいいけど、それだけじゃなくて、プロチームって地域が盛り上がるためのツールだと思うんですよ。微力ながらも茨城と水戸が盛り上がればいいなと思って活動しているだけです。でも、水戸にこうやって関わるまで、自分がこんなに地元に愛着があるって気付かなかったんですよね。
寺田:それは分かります。きっかけですよね。
栗原:自分がやめたくなる瞬間というのは、「こんな運営システムでやってられるか」と思うときですね。それは毎試合のようにあります。それでも知恵と体を使って必死に対応することでなんとかなってしまう。その結果、自分が成長しているんです。だから、やめられない。結局、それが楽しいんですね。大変な分、喜びも多くなっているんです。
猪瀬:クリは究極のボランティアを求めているからね。
寺田:僕もそう思っています。

猪瀬:どこのチームにもボランティアがいて、結構交流があるんですよね。それも楽しいですね。
栗原:他のチームの愚痴を聞くのは本当に楽しい(笑)!
寺田:そこ(笑)!?
栗原:他のチームも同じようなことで悩んでいるんだなと思うと、すごく楽になるんです。
寺田:それはありますね。
栗原:むしろ、ウチは恵まれているんだなと思うこともあります。特に人間関係では。
寺田:確かに人間関係はいいですからね。結構大変なチームもあるそうですから。
猪瀬:いろんなクラブを見ますが、ボランティアが楽しめていないようなクラブもありますね。水戸の場合、今後ボランティアに任される仕事の内容が減っていった時にどうやってモチベーションを保つかという課題はありますね。チームに資金的な余裕ができ、アルバイトを多く雇うようになった時にぽっかりと心に穴が開いてしまう人が出るかもしれない。
寺田:それは思いますね。水戸は特にそう思います。
猪瀬:僕らとしては、そこにお金を使うのならば、他のところにお金を使ってもらいたいなという思いがあります。僕たちは自分たちのポジションを奪われたくないわけですよ。クラブから「アルバイトを雇うことになったので、猪瀬さん、長い間ありがとうございました」と言われたら、卓袱台をひっくり返しますね(笑)。
寺田:その気持ちは分かります。もし、「DJを雇うことになりました」と言われたら、ふてくされると思います。もうスタジアムには行かないと思いますね。行かないというか、行けなくなっちゃう。
猪瀬:それは冗談として、確かに僕らはボランティアなので、負担を和らげてくれるという心遣いはありがたいのですが、僕らの活動する場がなくなったら、みんなテンションが下がってしまうと思う。

――クラブに資金力がついたら、ボランティアに負担をかけないように運営していく方がいいという考えもあると思うのですが、ボランティアとしてはそうしないでほしいと。
猪瀬:どんなにお金ができても、俺たちの活動する場を奪わないでほしい。俺たちは俺たちで今のまま活動しつつ、足りないところを足してもらいたい。みんな、そう思っていると思いますよ。
栗原:どんなにチームが強くなって、お客さんがたくさん入るようになっても、スタジアムの運営に心が感じられないようならば、ダメだと思うんですよ。自分のボランティアとしてのスタート地点というか基準というのは、トイレに行きたい子供にどう接するかというところで、場所だけ教えるのか、それともトイレまでついていってあげるのか。そこで運営の良しあしが分かれると思うんですよね。
猪瀬:あるクラブの人に聞いたのですが、ボランティアとアルバイトの共存が難しいと。温度差があるそうです。でも、絶対に言ってはいけないのは「俺たちは無給で、彼らはお金をもらっている」ということ。そう思ったら、ボランティアを辞めた方がいいですね。俺たちは好きで来て、そこに楽しみを求めている。生きがいがあるんですよ。そこにお金を求めてはいけないと思っています。差を言いだしたら、ダメ。「あなたたちはお金をもらってるんだから、もっとちゃんとしなさいよ」というぐらいじゃないと。これはボランティアの極論じゃないけど、その思いがなければボランティアはできない。
寺田:僕は今の立場で相当楽しんで活動させてもらっていますよ! Ksスタでボランティアやサポーターなどいろんな人と関われるのが本当に幸せ。アウェイではサポーターとして参加しますが、そこでもいろんな人との出会いがある。僕は人生を楽しんでいます。こんなに楽しんでいいのかと思うぐらい。
猪瀬:週末に寝るだけだったり、パチンコに行くだけだったりするより、よっぽど健全だと思いますよ。
寺田:毎日が本当に楽しい。すごく充実していますよ。


※スタジアムDJの寺田忍氏 【写真 米村優子】

(取材・構成 佐藤拓也・米村優子)

取材協力:「遊食や かちてん」
茨城県ひたちなか市勝田本町33−24
029-274-1002

※後編は明日25日公開予定です。

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