デイリーホーリーホック

【シーズンオフ特別企画】ボランティアグループ「Tifare」代表補佐・栗原賢二さんコラム「裏方魂⑩ なぜ水戸で闘うか」(2013/2/26)※全文無料公開

ポジティブな要素を探すのが難しかった06年あたり

シーズンオフ期間に週1で書かせていただいたコラムも、ひとまず今回で締めくくりとなります。共感でも反感でも、皆さんの魂にひとつでも訴えるものがあれば幸いです。以下長文でウンザリされるかもしれませんが、よろしければ最後までお付き合いください!

「たった1度の歓喜を得るために、10回打ちのめされて血ヘドを吐く」
水戸でのサポーター歴、裏方歴はそのようにしか表現できません。生まれた町のチームを応援するのは当たり前。それはそうだけど、あまりにも割に合わないじゃないか?

最近は明るい話題もかなり増えましたが、私が本格的に関わりだした2006年あたりはポジティブ要素を探す方が難しかった。当時の背番号6・小椋祥平選手がオリンピック代表候補に選ばれたぐらいでしょうか。知った顔と会えばグチばかり。全然楽しくなかったけど、卑屈な笑いだけがやり過ごす方法。この場所は何なんだ? 俺は何をしてるんだ? いち早くチームを離れる事ばかり考えてたし、実際に去ってしまった仲間もいる。

そんなある日マスコット・ホーリー君のぬいぐるみが商品化され、私は試合会場で手売りしました。家族連れのサポーターがぬいぐるみを買い求め、ホーリー君を抱いてニコニコしている小さな子。「ああ、この風景を見捨てちゃいけないんだ」本能的にそう感じました。
ひとすじの希望があるなら、賭けてみようじゃないか。

幾度も幾度も空回り、頭を抱えながら踏ん張った。「それでも前には進んでる」と、己に言い聞かせながら。2009年はクラブの転機となったシーズンです。先日現役を引退された、吉原宏太選手の加入が大きい。実力と経験、華までも備えたスターの存在は、クラブを取り巻く雰囲気そのものを変えました。

点を取られたら取り返す。「10年に1度のタレント」が集結した笠松のピッチは、スペクタクルなサッカーで魅了! ……それでも観客は3200人。当時の水戸として多い部類だけど、失速するのは必然だったと思います。私たち関係者が「勝ち慣れ」していないのも痛かった。勝点を伸ばすほどフワフワと、浮ついている自分がいました。夏までの連勝記録が秋には連敗記録に変わり、観客動員も1800人へ逆戻り。タチの悪い、おとぎ話を見ているような気持ちでした。

ちょうどそのタイミングで、水戸市に新しいスタジアムが完成。これで少しは状況が変わるだろうか? 現実はあまりにシビアだった。記念すべきこけら落としで客席の半分をアウェイサポーターに埋められ、なすすべなく目の前でJ1昇格を決められる。……何も、何も変わってないじゃないか!

対戦相手に罪はない。全ては自分たちが弱いせいだ、わかっている。だけど運営の現場で手を抜いた覚えはない。それでも弱いのか? 「ちくしょう、ちくしょう」心の中で繰り返し、情けなさのあまりトイレで泣いた記憶があります。今度こそ、チームを離れようと思いました。その一方で、Ksスタのポテンシャルをまだ全然引き出してない心残りも。どうこう言うのは、やる事をやり切ってからじゃないか?本当はもう、離れる気持ちなどなかったのです。

「普通のクラブ」になれた

あれから3年あまり。風向きは少しずつ変わって、水戸ホーリーホックがようやく「普通のクラブ」になれたと実感します。この先私たちは、どこを目指して歩けば良いか? 町のカラーに絡めるなら「水戸っぽ」の由来、「骨っぽい」がキーワードかなと思います。時流に乗っかる柔軟さに欠け、お金儲けが下手。無駄な熱さと正義感が裏目に出て、損な役割を引き受ける。ホーリーホックの歩んできた道のりと、見事なまでにリンクしている。

しかし「つまらない正義」も貫けば、誰かの心を打てるはず。損でも不器用でも受けて立つ気概なら、スペシャルな存在に成長できるのではないかと。クラブの「10年頑張って、やっと普通」という現在地に、脱力感を覚えなくもありません。いつか聞いた、宮大工の話を思い出しました。神社仏閣を鮮やかによみがえらせる「匠」の技。超一流と呼ばれる職人の多くは、若手時代に要領の悪さで苦しんだようです。

言われた事をすぐ消化できず、親方に怒鳴られっぱなし。1つ1つノートに取って読み返さなければ覚えない。基本的な技術も、深夜に独りで練習してようやくできるようになる。「人の3倍努力して、やっと人並み」情けなさに泣いた日もあるでしょう。

しかし研鑚を積み重ねていくと、器用に立ち回る隣の「天才」に肩を並べる日が来る。やがて追い越した後も「俺は下手クソだから」と、3倍の努力を惜しまない。いつしか彼は、誰も追いつけない価値を手にする。

苦しみは乗り越える時、必ず自分の力になっている。言い換えれば、苦しまないと本当の力はつかない。ボランティアとして関わったホームゲーム約130試合(およそ1000時間)は、いずれもギリギリの闘いでした。ただ、今ふり返れば感謝しか浮かびません。課題の数々が自分を大きく成長させたし、ともに汗をかく仲間もできた。会社から帰って深夜までTVゲームをやるだけだった日々より、人生が充実している。

私は時々考えます。もし自分の人生に、水戸ホーリーホックがなかったら? ひとつの勝ち負けに振り回される事もなく、平穏に暮らしていたかもしれません。だけど「平穏」には、「何もない」という意味もある。悔しさやジレンマがあるからこそ、嬉しい場面は輝くんじゃないか?

まだ達成していない、未知の歓喜を目指して

J1への道は依然として険しい。とはいえJFLからJ2、ひいては地域リーグからJFLへの狭き門を考えれば、不遇などと言ったらバチが当たります。現在立てているステージに感謝を忘れないと同時に、「水戸はどうせこの程度だ」という固定観念を、自ら打ち壊す事が大切かと。

世界中どんなビッグクラブも、最初は身内が弁当持って応援に来た所から始まったのでしょう。私たちのホームスタジアムにはもう既に、「他人」が4000も集まってきている。それだけの魅力があるのです。上手く伝えて広げていけば、「10000人の日常」も夢ではありません。

水戸で闘う理由は、「まだそれを達成していないから」。未知の歓喜がそこかしこに転がっている。栄光を味わい尽くしたクラブから見ればちっぽけな価値かもしれないけど、自力で何かを作り、つかみ取る状況の方が関わっていて面白い。チームも町も、そして自分自身も「高度成長」できる可能性。辛かった時期が長ければ長いほど、何かを成し遂げた達成感は大きいし、感謝を忘れない人間でいられるでしょう。

……ここまで拙い文章をお読みいただいた皆さん、本当にありがとうございました。来週からは裏方の現場で、自らの言葉を実践していきたいと思います。どうか私たちTifareを温かく見守ってください。一緒に活動に参加してくれる方が増えれば何より嬉しいです。

また一個人の話を何度も取り上げてくれた、デイリー・ホーリーホック事務局に深く感謝します。クラブにまつわる素敵なトピックや人々が、自然と集まるメディアになるのを心から祈って。

「もう、泣くだけ泣いた。あとは笑って前進するのみ」
皆さん、スタジアムでお会いしましょう!!

(栗原賢二)

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