デイリーホーリーホック

【インタビュー】沼田邦郎社長インタビュー「ホーリーホックが水戸を変える、地域を変える、茨城を変える(前編)~経営について~」(4151文字)(2015/1/11)※全文無料公開

背中スポンサーがつかず、昨年は約3600万円の赤字

――まずは経営についてお伺いしたいと思います。
「社長に就任してから7年が経ちますが、自分も日々勉強させていただいている立場であることは変わりません。その中で他チームの取り組みを参考にしたり、Jリーグクラブのあり方を学びながら、水戸はどういう方向に進むべきかを考えてきました。水戸ホーリーホックは地域に密着したクラブであるために、ガラス張りの組織にしなければならない。みなさんからの目がある以上、分かりやすく鮮明にしていきたいということが経営方針の中にあります。目指すところは地域に根差したスポーツクラブなのですが、常にJ1を目指しながら前進していかなければならない。その中でライセンスの問題よりもどういう形でJ1に行くか、J1にふさわしいクラブになっていくかを考えながら運営させていただいております」

――昨年の経営状況について聞かせていただきます。昨年は赤字だったとのことですが。
「一昨年決算ではご支援ご協力くださった多くの皆様のおかげで、3期連続の黒字決算と純資産の積上げができ、会社の基盤を整えることができました。そこでクラブとして次の段階に進むために、昨年はJ1にふさわしい魅力のあるクラブとなるべく、中期経営計画を策定しました。水戸ホーリーホックの現状とこれまでのJ1に昇格したクラブを比較した上で、成績・経営規模・観客数・組織体制など様々な面で目標に到達するまでの道筋を定め、昨年はその1年目としてスタートしました。経営規模を拡大していく中では当然収入を増やさなければなりません。しかし、昨年は最後までユニフォーム背中にスポンサーをつけることができませんでした。なんとか挽回しようと他の収入も含めて努力したのですが、増収となりながらも支出をカバーできるだけの収入とはならず、昨年の決算については約3600万円の赤字となる予定です。それは経営者である私一人の責任です。今後どのように収入を増やすのか考え直さなければならない。黒字を出す体質に戻さなければならないので、今年に関しては、昨年より堅い予算編成にしました」

――背中のスポンサーがつかないことがすべてだった?
「そのことが大きな要因であることに間違いありません。とはいえ、債務超過も解消していますし、ずっと黒字を出してきましたし、資金繰りも堅実にやってきたので、クラブの体力としては前年度の赤字ぐらいで傾くといったことはありません。とはいえ、赤字となったことは私の責任以外の何物でもありません」

――昨年はガールズ&パンツァー(ガルパン)とのコラボだったり、様々な企画を立てて、新たな収益構造を築いているように見えました。
「観客動員では多くのクラブが伸び悩みを見せている中、ウチは増やすことができました。その要因は多くの人に関わっていただくことができたからだと考えています。ガルパンもその一つですし、いろんなことを前向きに考えて仕掛けられるようになっているのが大きい。実際、グッズ収入も伸びました。クラブとしてやるべきことが見えてきているので、次につながる赤字だと思っています」

――以前は企画を仕掛けることもできませんでした。
「そうですね。多くの人を巻きこみながら、そして携わっていただいた方々にも利益を生み出すようにしなければならない。Win-Winの関係を作れるようにはなってきています」

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【写真 佐藤拓也】

「葵龍会」と「サポーターズクラブ」「支援持株会」との違い

――後援会「葵龍会」の発足が決定しました。あらためて発足の経緯を説明していただけますか?
「水戸には『サポーターズクラブ』と『水戸ホーリーホック支援持株会』の2つの支援組織がありますが、クラブにルーティンにお金が入ってくる仕組みがなかったんです。08年に社長に就任した時から『いつかは後援会を作りたい』と考えていました。ただ、2つの組織がありますし、新たに組織を作ったところで引き受けてくれる人はいなかった。さらに言うと、本来後援会というのは応援してくれる人たちによって作っていただくものですから、そういう機運すらこのクラブにはなかった。でも、12年以降、クラブとして土台を築くことができ、関わっていただく方が多くなってきた。お金を出したいけど、どこに出したらいいか分からないという方も増えてきたんです。スポンサーにはなれないけど、個人で数万円なら出せるよという声が多くなってきた中で後援会を発足させようということになったんです」

――「サポーターズクラブ」と「支援持株会」、そして後援会「葵龍会」。それぞれの違いについて説明していただきたいのですが、まずサポーターズクラブはあくまでサポーターズクラブを運営するために会費を集めているということでよろしいのでしょうか?
「そうです。あくまでサポーターズクラブはクラブ主導で運営して、サポーターになっていただける人を増やすための役割を担っています。加入していただいた方に喜んでもらうための特典をつけ、それに見合う会費を払っていただくという形で運営する、誰でも気軽に入れるような組織です。一方、『葵龍会』は、支援いただける方から直接運営資金をいただく形となっています。そこがサポーターズクラブとの一番の違いと言えます。なので、試合を見られなくても地域のために貢献したい、チームを応援したいという理由で葵龍会に入っていただく方もいらっしゃいます」

――分かりやすく言うと、「葵龍会」は一つのスポンサー組織で、多くの支援者からお金を集めて、クラブを金銭的に支援するための組織ということですね。
「そうです。ユニフォームスポンサーぐらいの金額が集まるのが我々にとっての理想です」

――支援持株会との違いは?
「『葵龍会』がスポンサーだとすれば、『支援持株会』は株主ということになります。ただ、新規に持株会に加入していただいても、増資する時にしかクラブにお金は入ってきません。持株会に入れば株主になれると勘違いされる方が多いのですが、株主ではなく、持株会の会員になるということです。現在、持株会との関係を見つめ直す時期に来ていると考えています。というのも、たとえば、10年前に1万円で持株会に入られた方にも我々は毎年チケットを送付させていただいております。また、会員にはホームゲームのチケットの割引やサポーターズクラブの年会費が半額になるなど特典が付いていて、支援していただいたことはとてもありがたいのですが、経営的に歪みが生まれてきてしまっているのが実情です。資本増強を考えた時にバランスが崩れてしまっている。なので、持株会としてのこれまでの活動に対して十分な敬意を表しながらも、葵龍会との違いも分かりづらくなっているので、募集を一度休止していただいて、たとえば、スタジアムを建設する時や練習場やクラブハウスを作る時などクラブが大きな増資する際に持株会に協力していただいて、資本を増やすという関係にしていきたいと考えております。実は今現在、持株会幹部の皆様と話し合いしているところです」

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【写真 米村優子】

「葵龍会」立ち上げとともに育成年代の改革も行う

――「葵龍会」がうまく機能すれば、経営的に安定することになります。会長の水戸德川家15代当主德川斉正さんをはじめ、副会長にも錚々たる方の名前が揃いました。
「一番こだわったのは名前だけではなく、クラブを応援してくださる方々に入っていただくことでした。私が接して熱い思いを感じた方にお願いして副会長になってもらいました。本当に素晴らしい方々ばかり。楽しみですね。とはいえ、これだけの方々に支援をしていただくことによって、言い訳もできなくなりましたので、気を引き締めて取り組んでいきたいと思っています」

――目標額はありますか?
「1億円。やはり立ち上げるからにはそれぐらい集まる組織にしたいですね。1億円集まれば、毎年クラブに数千万円は入るようになる。そうなれば、クラブにとっては非常に大きいですよ」

――「葵龍会」から入ってきた資金はどのように使用する予定ですか?
「僕が社長に就任した際の会見で『育成に力を入れたい』と言いました。その思いは変わっていません。もちろん、トップチームの強化費にも使いますが、基本的には葵龍会で集まったお金はこの地域の子どもたちがホーリーホックのトップに上がるための資金にもしていきたい。田向泰輝や岡田明久のように水戸出身の選手がホーリーホックの一員として戦い、そして世界に羽ばたいていく。そうやってこの地域の子どもたちに夢を与えられるようにしたい。毎年ユースからトップに選手を輩出できるようになるのが理想。そうなれば、選手が引き抜かれてもトレーニング費用が水戸に入る。また、現役引退後は水戸に戻ってきてもらって、地域の子どもたちの指導をしてもらう。そういった仕組みを作っていこうと考えています。そういう意味で『葵龍会』立ち上げとともに育成年代の改革も行う予定です」

――どういった改革を行うのですか?
「まず、コーチングスタッフの補充を行います。そして、フロントにアカデミー担当を置いて、アカデミーの活動の幅を広げながら、スカウティング等にも力を入れていく。地域の優秀な子どもにジュニアユースやユースに入ってもらうような仕組みを作っていかなければ、強くならない。そのためにも地域の指導者との関係を築かなければならない。その土壌作りを今年からスタートさせていきます」

――クラブの今後を見据えた時、アカデミーの基盤作りは必要不可欠です。
「そうですね。あと、ジュニアチームで連携している『株式会社EIKO総合教育研究所』さんと組んで4月に15歳以下の女子チームを立ち上げることが決まりました。トップチームはMITO EIKO FCさんがあるので、我々はやりませんが、中学生年代のチームを持とうと考えています。というのも、女子の中学生年代というのはサッカー界で最も空白となっている年代です。サッカーをする女子は増えているのですが、中学校に女子サッカー部がなくてやめてしまう子がかなり多いという話を聞きます。なので、少しでも改善できるように新たにチームを立ち上げることにしました。男子も女子も育成普及に力を入れていきたいと思っています」

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※「葵龍会」で集まった資金は育成年代のためにも使われるという。
【写真 米村優子】

※後編に続く

(取材・構成 佐藤拓也)

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