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【特別寄稿】ボランティアグループ「Tifare」代表補佐・栗原賢二さんコラム「裏方魂⑳ プランが崩れた時」(2015/1/20)※全文無料公開

自分がやらかしたパスミスの数々を思い出して冷や汗が

先ごろ開催されたJ1昇格プレーオフおよびJ2・J3入替え戦は、緊迫感あふれる展開でしたね。
関わりのない人間が見てハラハラするのだから、当事者の選手サポーターは生きた心地がしないんじゃないかと。
1試合の結果で人生が変わるプレッシャーに加えて「引き分けでも良い」「勝つしかない」立場の違いが、微妙に歯車を狂わせる気がします。

私も社会人サッカーで、リーグ残留をかけた一戦に出場した事があり、自分のプレー次第で全て台無しになるのでは?とビクビクものでした。
それが数千数万の観衆が見守るプロの試合なら、背負うものの重さは比較にならないでしょう。

こういう理屈を超えた一発勝負でも監督コーチは作戦を準備し、選手達とともに高度な駆け引きをしているんですよね。
しかし90分間で状況もボールも常に揺れ動いている中だから、思い通りに運ぶケースばかりじゃないだろうなと。
スタンドから見下ろす視野と、ピッチに立って確保できる視野も全く違うので尚更難しい……ああ、自分がやらかしたパスミスの数々を思い出して冷や汗が。

利き足でまともなクロスも上げられない私にサッカーの『ゲームプラン』を語る力量はありませんが、思わぬアクシデントで予定が狂った場合の立て直しが、いかに厳しいかはよくわかります。
皆さんも仕事において急な割り込みが入ったり、想定外の問題で段取りが崩された時、すぐ冷静さを取り戻せるでしょうか?

スタジアム運営での例としてお話したいのは、9月のジュビロ磐田戦です。Ksスタに7000人以上が集まり快勝したホームゲーム。しかしメインスタンドの運営は開門前、大ピンチに陥っていました。

箱はどこへ?

「箱が……ない!」
入場口や喫煙所を示す案内表示の入ったボックスが、どこにも見当たりません。
これがないとお客さんは無駄に迷う事になり、ストレスを感じます。
準備作業は各所の案内を、ガムテープで貼りだす所から始まる。その前提プランが早々に崩れてしまった。

そこに箱が見当たらないなら、違う場所へ行ってしまったのか? メンバー全員で探しに走るのも効率が悪いので、「とりあえず座席の雑巾がけ!」と指示を飛ばし、私が単独で捜索に出ました。

倉庫、ボランティア控室、運営本部。心当たりの場所を聞いて回るも収穫はなく、ただ時間だけが過ぎる。もしこのまま開門したら……身体に嫌な汗が流れるのを感じました。

可能性は薄いと承知しつつバックスタンド、アウェイゲートまで走ったけれど状況変わらず。さらに悪い事は重なり、私の右膝に突然の激痛。数年前フットサルで捻った古傷が、急にぶり返したのです。
「史上最高の雰囲気づくりを!」と勇み臨んだ磐田戦なのに、準備は進まない。足も痛い。心底、情けない気持ちになりました。

サッカーに例えれば開始早々に失点を食らい、さらに退場者が出て10人になってしまったような絶望感。大げさかもしれませんが、運営にとってはそれぐらいネガティブな状態と言えます。
私の心は折れ、涙目になったけど投げ出して帰るわけにはいかない。
「じゃあ、どうする?」頭の中はプラン修正の方策で再び回りはじめます。これが初めての修羅場じゃないだろう、と。

プランが崩れるのは不幸ではない、新たな可能性を試す幸運だ

掲示物がなければ、案内の人数を増やすしかない。簡単そうに思えるけど、割ける人員は常にギリギリ。予想集客から言ってもコンコースに戦力を移動させれば、その分ゲートの業務(もぎり、プログラム配布等)が破綻する確率は高い。
「でも、やるしかない。足りなくなった所は俺が2人分働こう(精神論ではなく物理的に)」そんな苦肉の『プランB』発動を決意したその矢先。

「栗原さん、あったよーーー!!」ひときわトーンの高い仲間の声。そこには散々探し回った例のボックスが。
なんと、コンコースに隣接するグッズ売店の荷物に紛れていたというオチでした(苦笑)。
盲点だった! 『灯台もと暗し』の例として辞書に載せられそうな結末に脱力しながら、
再発防止のため赤マジックで「試合前日、コンコース入口の下に置く事!」と箱に書き加えました。開門まであと30分。

道を失ったら、別の小道を探せ。
誰の言葉か忘れましたが、いったん状況を割り切ってプランを組み直したからこそ幸運が転がってきた。そう解釈もできます。
もし頭が真っ白のまま右往左往していたら、神様は面白がって意地悪を続けたかもしれません。

完璧とは行かないまでも準備作業ができ、動揺も収まりました。
試合はご存知の通り、4得点で快勝。もちろん選手サポーターの頑張りが実ったものだけど、
なす術もなく情緒不安定な開門を迎えていたらスコアが違っていたかもと、恐ろしい気持ちになります。

あの時は私用でハーフタイムまでしか居られなかったため、勝利の瞬間を見届ける事はできませんでした。
後に携帯で結果を確認し「すげええ!!」と2mほど飛び上がりました(笑)
私の貢献度といえば膝を痛めて涙目になっただけで何も無いけど、心は折れても頭に別プランを組み立てたのが、少しは良い方向に作用したかな?と。

100mものフィールドを走り回りながら、ボールを足で蹴る。サッカーが思い通りに行かないのは当たり前でしょう。
何らかの狙いを持って仲間と共有すれば、勝利に近づく事はできる。しかし不運や間の悪さが邪魔をして、前提が粉々に崩される。
そんな時どう呆然自失から立ち直り、次の一歩を何秒後に踏み出すかで人間の真価、いわゆる「メンタル」が試されます。

私は精神力というより、積み重ねた『アイディアの引き出し』によって立ち直りました。やり方はおそらく人それぞれにあるかなと。
予定調和で終わらないサッカーは、時に残酷な結果をもたらします。しかし裏を返せばイレギュラーを味方につけ、優位に進める事もできる。
「プランが崩れるのは不幸ではない、新たな可能性を試す幸運だ。ただしアイディアの準備を常に怠らなければ」
そんな気構えで、今後も努力を重ねます。

(栗原賢二)

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