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J1に昇格してもJ2に落ちない予算のボーダーラインとは?公認会計士の現役GMが教えるJクラブ経営のリアルな見方

 

 

「J1に上がれる予算規模っていくらぐらい?」「強化費はどこまで膨らんでOK?」「健全な経営かそうじゃないかの見抜き方は?」といったクラブ経営の疑問についてプロの見方をうかがうべく、これまで東京ヴェルディ、ジェフ千葉などの強化責任者を歴任し、現在は町田ゼルビアのGMを務める唐井直氏に話を聞いた。公認会計士の資格を持つ氏ならではの鋭い視点で、数字が苦手な人にでもわかるように経営のオモテとウラを解説してもらった。(聞き手:木村元彦)

【記事の内容】
・経営がうまくいっているクラブ、いっていないクラブを見分ける大事なポイント
・強化費を使いすぎているボーダーラインはいくらか?
・J1に昇格できてJ2に落ちないで定着できる経営規模とは? 今季はJ2の7クラブが該当も…
・中小クラブ経営の模範は松本山雅FCとファジアーノ岡山
・コロナ禍でまもなく訪れる中小クラブクライシス。自助努力では立ち行かない今、Jリーグがやるべきこと
……など

※記事中の情報は取材時点のものです。

 

■経営がうまくいっているクラブ、いっていないクラブを見分けるポイント

―今回のインタビューテーマは「難しいことはわかりませんが、Jクラブの経営のリアルな見方を教えてください」というものです。公認会計士の資格をもち、Jリーグを代表するGMである唐井さん(町田ゼルビアGM)に、Jクラブの経営の見方を教えていただこうというもので、Jリーグが公開しているJクラブ経営情報開示資料(2019年度)をもとに、どういったことが読み解けるのか、経営がうまくいっているクラブ、そうではなさそうなクラブを見分けるポイントなど、数字が苦手な素人でも要領をつかめるようやさしくレクチャーいただけないかと思います。

「そうですね。まず、Jリーグ誕生から30年近くが経過して、親会社、責任企業そのものがオリジナル10の重厚長大の大企業型から、いわゆるメルカリのようなIT関係にシフトしていっています。そのなかで例えばこの2019年度の経営情報の開示資料というのは、見方としてはすごく面白いんです」

―具体的にどこを見ていけば我々のような経営の素人でもそれがわかりますか。

「クラブ強化部の一般的な見方としては、まずこの一番上の営業収益【図1~3参照】、いわゆる売上高の数字と、選手強化にかけるこのチーム人件費の列をチェックします。クラブの大小はあるにせよ、大体一般的にはこの売上高、営業収益に対して、40%から50%がチーム人件費というのが、まあまあ普通の考え方なんですね」

 

 

 

 

JリーグがHPで公開している2019年度のJ1、J2、J3のクラブ経営情報資料。赤い文字は編集部で加筆。

 

―なるほど、強化にかける予算は、売上の4割というのが、身の丈に合った健全なバランスなわけですね。

「ええ、ところが今ここにヴィッセル(神戸)さんという、いわば旦那芸の極みみたいクラブがございまして。売上高が114億4000万円です。100億円クラブと村井チェアマンがよく仰っていますが、ヴィッセルさんはチーム人件費も69億2300万円と突出して高いんですね。(売上高に占める)割合も5割を超えていますが、何よりその絶対値だけでも凄い」

―うん。69億超えですか。町田の2020年度の売上高が10億ですから、人件費だけでその約7倍ですね。

「例えば昨年優勝した川崎フロンターレでさえ人件費は29億円です。この2019年はマリノスが26億円の人件費で優勝しています。このヴィッセルの70億円のチーム人件費は、推定ですが、イニエスタが32億5000万円、フェルマーレン5億円等々で、外国人4人(セルジ・サンペール、ドウグラスあわせて)で41億円になるとも言われています。もう4人だけでJリーグのトップになってしまう(2番目に人件費が多い名古屋で39億7000万)」

―そういう見方が出来るわけですね。予算のかけ方もまた潔いと言えますね。

「営業収益の中でスポンサー収入は一番大きな部分を占めるのですが(Jリーグ全55クラブの営業収益1325億円のうち48%の640億円がスポンサー収入)、クラブ経営として健全かどうかというところで僕らが見ているのは入場料収入(216億で16%)です。これはやっぱり浦和レッズが23億円とか、FC東京が11億円とか、関東のビッグクラブが目を引きます。10億円超えしているところは、いわゆる集客、スタジアムの収容率も高い数字を弾いています。それで先ほどのヴィッセルさんですが、これはイニエスタ効果で、12億円を入場料収入で弾いているんです」

―観客を呼べる選手を投資と考えて入れて、チケット収入や他のスポンサー収入で回収していく。費用対効果ということですかね。

「だからチケット収入をしっかり叩き出せるというのが、クラブとして上手く回っているひとつの指標と考えてみれば、10億円以上を弾いているクラブは、かなり頑張っていると言えます。ヴィッセルさんもビッグネームが来て、なおかつその10億円には達しているわけですから、私は先ほど、旦那芸の極みと申し上げましたけど、Jリーグ全体としてはそれはやはり歓迎することです」

 

■J1に昇格できてJ2に落ちないで定着できる経営規模の目安とは?

―以前は強化費といってもチーム人件費に計上されていないケースもあり単純に判断しづらいことがあると聞いたことがあります。

「いまはある程度チーム人件費で比較してよいと思います。昔は結構ファジーなところがありましたけど、Jリーグのほうで科目をしっかり統一しようということになっていますから」

―そういう意味でも売上高における人件費の割合を見るというのは、強化にどれだけお金を使っているのか、ひとつの指標になるわけですね。2019年に関してはその点、何かありますか。

「全体の事業規模の中ではこの年のサガン鳥栖が際立っています。20億円余りの営業収益に対して20億円をチーム人件費に使って、20億円の赤字を出している。これもまた、ありえない数字と言えます。あくまで私見ですが、要は複数年契約した選手たちの契約を抱えたまま、(支出を上回る)収入が見込めないのに払わざるを得なかった、ということの表れではないかと思うのです。それで、この表の一番下のところが純資産になるんですね。いわゆるクラブライセンス制度で、債務超過になったらライセンスはく奪というルールがあります(※2020年度からはコロナ禍の特例措置でこのルールは適用されない)。なので、各クラブは一番下の列が赤にならないよう上手に揃えるようとするんですけど、この時の鳥栖の数字は20億円の増資をして帳尻を合わせていることがうかがえます」

―増資したかどうかが分かるのはどこを見れば良いのでしょう。

「前の年と比較するんです。前の年の資本金と比べて、どう変わったという点から増資を見ることができるのです。この2019年なんかはもう本当に潰さないために相当強烈な注射をずどんと打って存続させた。そのご苦労の跡というのが見て取れます」

―聞くところでは、あるビッグクラブは今シーズン、年俸の高い主力やベテラン選手の多くに半額以下の年俸を提示したとも言われています。

「今シーズンは実績のある選手やベテラン選手には大変なマーケットになりましたよね」

―その傾向は来季も続きますよね。

「はい。チーム人件費の総額が減ることは間違いないと思いますので」

―チーム人件費でいうと、J2の場合、昇格のために必要とされる目安のようなものはあったりしますでしょうか。

 

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