J論プレミアム

WEリーグが成功しなかったら大変なことになる……Jリーグ前史を知る名伯楽・菅野将晃がいま伝えたいプロの重み【サッカー、ときどきごはん】

 

アマチュア時代から地に足をつけて選手、指導者としての道を歩んできたからこそ、感じていることがある。プロとは何か? うまくいくクラブや選手とそうでないものの違いは何か? かつては監督としてJリーグのクラブを渡り歩き、現在は女子チームを率いる苦労人・菅野将晃にこれまでのキャリアを振り返ってもらった。

 

■本当の意味でプロにならないとすぐにダメになる

Jクラブの監督から女子チームの監督になってもう13年ですね。今は山梨県女子サッカーリーグ1部、FCふじざくら山梨の監督です。

2018年、ノジマステラ神奈川相模原を辞めるという発表があったその日に、今のFCふじざくら山梨から電話をもらったんです。話を聞いたらステラを立ち上げるときと状況は同じでしたね。選手を集めるところからスタートするクラブでした。

それでステラと同じイメージを描きながら来たんですけど、女子のレベルは年々上がっていてなかなか大変だと思ってたんです。でも選手ががんばってくれて、2019年はチャレンジリーグ入れ替え戦予選のグループAで1位になって、結局入れ替え戦では負けたものの手応えはつかめたんです。

ところが2020年はWEリーグができるということでなでしこリーグとの再編があり、参入決定戦がなかったんですよ。それで今年、またなでしこリーグ2部との入れ替え戦に出たんですけど、残念ながら1勝1敗で先に進めませんでした。

来年こそ、なでしこリーグ2部に上がって、そこから1部、そして将来的にはWEリーグ入りを狙いたいと思います。

今年WEリーグができたんですけど、これが成功しなかったら日本の女子サッカーは大変なことになると思いますよ。日本って一度やったことがダメになったら、たぶん2度は立ち上がらないでしょう。

アメリカだったら潰れちゃもう1回作ってというのを何回もやってるけど、日本はそういう風土とか思考をあんまり持ってないから、もうダメだねってなっちゃうんでね。

だからサッカー人としても、WEリーグの成功をとにかく願ってます。ただ自分が思うのは、クラブが本当にプロとしての要素をしっかり持ってやらないといけないということです。

Jクラブには男子のノウハウがあって、その育成部門の1つみたいに女子チームを持ってたところが多かったと思うんです。でもそのままだったら育成年代の延長になっちゃう。そうじゃなくてプロのクラブとしてのやり方とか考えをしっかり持たなかったらすぐダメになると思います。

私たちのクラブは「プレーイングワーカー」を目指そうという考え方を持っています。「プレーイングワーカー」っていうのは、サッカー以外で働けっていうことじゃなくて、社会人としても1人前になれるような活動をしていきなさい、考え方をしていきなさいっていうことです。

だからうちがプロになったら面白いと思いますよ。あらゆることを選手たちに教えるし、実践させる。外への発信とか、地域に対して何をするのかということを真剣に今から考えてやってるんで。

高卒の選手に「あなたはプロになりました。サッカーやりなさい。活躍しなさい。ダメだったらアウトです」って世界に身を置かせて、「その後社会人としてどうやっていくのかはあなたの自由ですよ」じゃなくて、どんなスキルを身につけなきゃいけないのかを、クラブがいろんな形でやっていかないといけないと思ってるんです。

僕自身もJリーグができる前に働いていた古河電工時代に、社会人としての大きな経験ができたと思いますね。「どうしてサッカーできるのか」「お金ってどうやって生まれるの」って分かってない選手って絶対ダメですよ。

それにクラブとして選手にはいろんなことを伝えてるんです。たとえばメンタルトレーニングの辻秀一先生に月最低1回は来ていただいてトレーニングを行っていただくんですけど、この歳になって新しいことを学ばせてもらってます。

女子サッカーを指導する魅力って、成長がすごく見られるところだと思うんです。成長とともに勝ちを得なきゃいけない。その育成と勝負の両方をできるんですよ。男子のトップチームを指揮すると、成長や育成の部分はあまり関係なくなるじゃないですか。

男子の世界でも勝負の世界の厳しさはあるし、そこでの楽しみもあるんだけども、女子の世界だとそういう勝負の世界とともに日常的には選手を成長させるためにはどうすればいいかという部分もある。その両方を味わえるのは指導者冥利というか、一番面白いところなんじゃないのかって思いますね。

 

※この続きは「森マガ」へ登録すると読むことができます。続きはコチラ
 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ