「川崎フットボールアディクト」

【#オフログ】ガンダムがオーバーラップするあの日の等々力。JsGOALから独自メディアへの挑戦

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04年からJsGOALの川崎担当になったのにはいくつかの偶然が重なった事による。担当が変わるタイミングだったということで、運営会社のSEAから声をかけてもらったという事。

全く取材経験がないライターをフロンターレクラスのクラブの担当にするわけはないが、その点ぼくはフロンターレを全く取材していなかったわけではなかった。フロンターレを取材することになったのは、01年途中から。大分を解任された石崎信弘監督(当時)を取材すべく、クラブハウスに出入りさせてもらいはじめていたのだ。石崎監督は、99年にぼくがライターを自称し始めた頃に、多大なる影響を受けた監督だった。そしてその石崎監督がフロンターレを最後に率いた03年の取材を通して、フロンターレをもっと取材したいと考えるようになっていた。サッカーの内容や選手、フロントスタッフとの人間関係はもちろんあるが、それと同じくらい、どうしようもなく暖かいスタジアムの虜になったのだ。

もちろん荒れる試合が無かったわけではない。ただ、それを乗り越える包容力を、等々力が持ち始めていた。それが03年のタイミングだった。

担当になった04年以降、川崎のホームゲームは基本的に自ら断わること無く書かせてもらったが、今でも思い出すのが実は03年の最終節に書いたレポートだった。
【J2 第44節川崎F vs 広島戦レポート】川崎、「勝ち点差1」の重み(03.11.24)→1月31日まで

22,087人を収容した等々力は白熱した試合展開の中、そのテンションを高めた。勝たなければすべての可能性が潰える川崎は同点に追いつかれた後半81分に我那覇和樹の決勝ゴールが決まり、勝利。しかし、勝ち点1及ばずに昇格を逃す事となった。選手たちは打ちひしががれ、涙した。

とここまではよくある話なのだが、ここから先が違っていた。原稿中から引用すると

 

【J2 第44節川崎F vs 広島戦レポート】川崎、「勝ち点差1」の重み(03.11.24)
3位が確定した試合後に、選手たちがサポーターの所まで行ったときのこと。サポーターたちは戦いを続けてきた選手に対して歌を歌い続けた。ブーイングが出てもおかしくない状況だった。それでも彼らは途切れることのない歌を歌い続けた」

 

 

原稿中にはぼかして書いてあるが、この時の情景を見ているときに、脳裏に浮かんだのはガンダムの最終回だった。アニメが嫌いな人には伝わらないかもしれないが、ボロボロになったコアファイターで要塞を脱出するアムロを、暖かく迎え入れるホワイトベースの仲間たちの姿がこの試合の等々力の状況とマッチした。

あの試合、一年を通して戦い、勝ち点1足りなくて目標を達成できなかった選手たちを包み込むような等々力の空気は忘れられないものだった。そんなこともあり、川崎の担当の話が来た時、考えることも無く即座にお願いした。

あれから12年目のシーズン。川崎を取材し、その題材を発表する場を与えてきてくれたJsGOALが無くなってしまう事になった。これほど、悲しいことはない。ぼくらライターが心血を注いで連綿と紡ぎ、そして選手やクラブ、サポーターとともに作り上げてきた一種独特のあの表現の場が、アーカイブですら残されないというのは、残念でならない。

ただ、表現の場の設営を誰かに頼る以上、無くなることに覚悟は必要だ。
振り返れば、初めて定期的に表現の場を与えてくれたisizeスポーツというサイトもそう。メディアにしても、Jリーグを題材とした月刊誌はこれまでも作られては消えていった。
誰かに頼る以上、その誰かの都合である日突然表現の場は無くなってしまうことはありうる。Jの公式に類したJsGOALですらそうなのだから、商業メディアはさらに厳しい状況に立たされるのは仕方のないことだとも思う。
だから今回のことは、活動の場となっていたメディアが一つ無くなることを恨むのではなく、一つの文化を作る手伝いをさせてもらったのだと前向きに捉え、感謝したいと思う。

そして、これから先、媒体の都合に左右されずに済む可能性に、ぼくは挑戦しようと思う。
江藤高志のフィルターを通した文章は、万人に愛されるものだとは思わない。時には憎悪の対象となるかもしれない。ただ、それでも好んで読んでくれる人が居るのなら、その人のために文章を綴ることを続けようと思う。
その文章がアムロを迎えた、ホワイトベースの仲間たちの役割を果たせるように。フロンターレの選手たちを迎え入れる、等々力の雰囲気を醸し出せるように。そしていつの日か、こんな形容の必要のない「江藤の文章」がジャンルを確立できるよう、頑張ろうと思う。
それがアーカイブすら残さないとの判断を下したJリーグへの、ぼくなりの恩返しになるのではないかと信じている。

江藤高志

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