「川崎フットボールアディクト」

【コラム】【いしかわコラム】vol.2 登里享平と小林悠が見せたピッチでの信頼関係

フロンターレの元気印・登里享平がピッチに戻ってきました。

昨年は左ひざ半月板損傷の手術もあり長期離脱。出場は、途中交代で入った横浜F・マリノス戦(2nd第15節)のほんの数分だけと、実に不本意なシーズンとなってしまいました。

今年は4月6日のナビスコカップ・アルビレックス新潟戦で先発。その後もコンスタントに試合出場。レギュラーの一角としてポジションを掴みつつあります。

麻生グラウンドの練習を取材していると、登里の声がよく響いています。風間監督や大久保嘉人も認めるムードメーカーは、チームの雰囲気作りも、今まで以上に意識していると話してくれました。

「去年は試合に絡めなかったし、外から見る機会が多かったので、それを生かしたいと思ってやっていますね。『今はどういう状況かな』と考えるようになりました。試合の時も先発でも途中交代でもそれを意識しているし、普段のトレーニングの雰囲気が悪い時もありますから。そういうときにチームがマイナスにいかないように声かけだったりを、多少なりに意識しています。それで良い方向に進めていければと思っています」

熊本で起きた大震災に際しては、谷口彰悟と車屋紳太郎とともに復興支援活動を行うなど、選手会長としてもピッチ外でも精力的に活動しています。

そんな登里享平に対する、チームメートの信頼を垣間見た試合がありました。

吹田スタジアムで行われたガンバ大阪戦(1st第9節)です。

右サイドバックのレギュラーであるエウシーニョが出場停止という事態に、風間監督は登里を右サイドバックで起用しています。

登里にとっては人生初の右サイドバック。左サイドを主戦場とする左利きの彼が、不慣れなプレーすることは決して簡単ではなかったはずです。

どういうところが難しいのか。

その例を一つあげると、ボールを運ぶ動作を見ても全然違います。いつもの左サイドのタッチライン際でドリブルしていた場合は、タッチラインに近い左足にボールを置いてコントロールできます。視界は右180度に限定されて、ボールを奪う相手もほぼ右側からくるので、寄せてくる相手を右手でガードしながら、ボールを運ぶという動作になります。

左利きの登里が右サイドでプレーする場合は、その世界が逆になるわけです。いつもと同じように、ボールの置き場所を左足にしてコントロールしようとすると、左側から奪いにくる相手に近い位置にボールを晒すことになります。それを避けるには、慣れていない右足でボールをコントロールしてボールを運ばなくてはいけませんし、左手を使って相手をガードするという動作になるわけです。もちろん、守備をするときも、いつもとは逆の動作が多くなるわけです。そういう難しさを抱えてのプレーでした。

実際に試合が始まると、そんな不安もなんのその。登里は右サイドで違和感ないプレーを見せていました。ドリブルで持ち運ぶ場面はさすがに抑えめでしたが、ボールを持ちすぎることもなく、素早いタッチで味方にテンポよく預けて、攻撃の組み立てを担っていました。

「やりにくかった部分と、やりやすかった部分の両方ありますね。試合に入る前は、ネガティブな気持ちはそこまでなかったです。あとはガンバもそこまで連動してこなかった。ショウゴ(谷口彰悟)とリョウタ(大島僚太)のところでうまくポジションをとってくれていたので、相手に詰められても、もうひとりのボランチが空いていました」

試練が訪れたのは、後半です。

先制を許したガンバ大阪は、後半から2トップの一角だった日本代表・宇佐美貴史を左サイドハーフにして、不慣れな右サイドバックである登里享平のエリアから崩していく狙いに切り替えてきたからです。左サイドに流れた宇佐美にボールを集め、そこで勝負して川崎守備陣を切り崩しにかかりました。

しかし、この対人勝負で登里は一歩も引きません。彼は瞬間的なスピードがあるので、宇佐美が縦に突破を仕掛けてきても、背後を取られることなく対応し続けています。

さらに絶妙だったのが味方のサポートでした。宇佐美が左サイドで仕掛けをしようとボールをキープすると、右サイドハーフだった小林悠がものすごい勢いで帰陣して、後ろからアプローチをして宇佐美を自由にさせません。この守備の関係性が見事でした。

実は試合前、慣れていない右サイドバックをつとめる登里を守備で全力でサポートすることを強く誓っていたのが小林悠だったんです。

「ノボリとは普段から仲が良いし、よく話すのでコミュニケーションも取れています。試合中、うまくいかないこともあると思うけど、そこは話して修正できると思ってます。そこは仲の良さを出していきたいですね(笑)」

よく知られているように、登里享平と小林悠はプライベートでは大の仲良しです。だからこその信頼関係をピッチでも出していたというわけです。その姿に、僕はなんだか熱いものを感じてしました。試合後、右サイドの縦関係を築いたお互いのことをこう褒め称えていました。

「ノボリとは話をしていました。縦に宇佐美を仕掛けさせて、もし中にカットインしていくときは、自分が後ろから戻ってフォローするよ、と。そういう風に声を掛け合っていたので、すごくやりやすかったですね」(小林悠)

「コバくん(小林悠)もハードワークしてくれました。(左サイドバックの)藤春選手が外から回ってきて、それに自分がつられたら(宇佐美が)カットインしてくるので、そこで挟みに来て欲しいと話してました。だから、そういう想定内ですけど、コバくんの運動量がすごかったですね。コバくんの存在は大きかったです」(登里享平)

最後はポジションを変えましたが、登里のいた右サイドは破綻することなくガンバの攻撃陣をシャットアウト。試合は1-0での勝利。リーグ戦ではアウェイでガンバ大阪に初めて勝つことができました。

誰かのために頑張れる。

優勝するためには、ピッチのあちこちに選手同士のそんな強い信頼関係も必要なのかもしれません。あの試合の登里と小林のプレーの端々から、そんなことを教えられたような気がします。

(取材・文/いしかわごう 写真/江藤高志)

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