「川崎フットボールアディクト」

【コラム】【いしかわコラム】vol.3 大塚翔平がフロンターレの前線で輝ける理由

1stステージ第15節・横浜F・マリノスとの神奈川ダービーに完勝し、いよいよステージ制覇に王手がかかりました。チームは開幕から安定感ある戦い方を見せ続けていますが、この一ヶ月の川崎フロンターレを振り返ったときに印象に残った選手といえば・・・やはりFW・大塚翔平でしょう。

ベンチ入りもままならない時期が続いてましたが、5月25日のナビスコカップ・ベガルタ仙台戦でスタメン出場すると、チームを勝利にもたらす2ゴールを記録。結果を出したことで、リーグ戦ではジュビロ磐田戦、横浜F・マリノス戦と2試合連続で途中出場しており、流れを変える交代カードとして輝きを見せています。試合後の勝利の儀式で必要以上に手荒い祝福をチームメートからの受けるイジられキャラとしても、お馴染みになりました。

大塚翔平のようなタイプが前線で存在感を見せているのは、興味深い現象だと思います。というのも、風間フロンターレでは、新加入選手がフィットするのは簡単ではなく、特にFWのポジションは難しいと言われています。ここ数年を振り返ると、2013年にはパトリック、2014年には森島康仁、2015年には杉本健勇と、いわゆる大型タイプのストライカーを毎年獲得しながらも前線でフィットし切れず、結局、他クラブへ移籍しています。今シーズンは森本貴幸が加入しましたが、馴染むまでにケガを負ってしまい、長期離脱となっています。

彼らのようなストライカーに比べると、大塚翔平というFWは「わかりやすい武器」があるとは言い難いタイプです。相手に当たり負けしないフィジカルや、空中戦での競り合いの強さがあるわけではないし、相手を一瞬で置き去りにするようなスピードがあるわけでもありません。

では何が優れているかというと、大塚翔平は相手に掴まらずにボールを引き出す技術に優れているFWだということです。風間監督の言葉を借りれば、「相手を外す技術」と「受ける技術」です。彼の動きを観察していると、敵陣のゴール前でタイミングよくボールを受けて、味方にさばくプレーがとてもスムーズにやっていると気づきます。いわゆる相手のブロックの間で受けるプレーですけど、彼は相手DFに身体をぶつけながらキープするのではなく、身体をぶつけられないタイミングでボールを受けてくれるのです。

「出して、動く」を基本として展開しているフロンターレのサッカーでは、後半の消耗した時間帯になると、味方のパスコースに顔を出す動きが、どうしても減ってしまいます。そういう時間帯にパスの受け手となれる動きをし続けて、前線でタメをつくれる大塚翔平の存在が実に効果的なカードになっているわけです。

ちなみに、この感覚をいつ身につけたのか。本人に聞いたところ、やはりガンバ大阪の下部組織にルーツがあると明かしていました。

「そういうプレーは昔から、ガンバの頃から得意としていました。相手の状況を見て、ちょうどいい位置だと感覚でわかるんです。なんとなく自分がここがいいとか、相手だったらそこに立つと嫌なんだろうなとか。もし相手が奪いに来ていたら、もう一回はたいていけばいいし、来ていなかったら、フリーで前を向ける。そういうことを考えながら自分でもやっている。ガンバの下部組織は練習からずっとやっていたので」

過去に所属していたJ2リーグのジェフ千葉やギラヴァンツ北九州では、チームが志向するスタイルの違いもあり、このプレー感覚を生かす場面は少なかったようです。それだけに、フロンターレでは、ガンバ大阪時代を思い出すような感覚があると言います。

「みんなそういうのができるし、(その感覚を)わかってくれていますよね。フロンターレは、パスも出てくるし、非常にやりやすい。ボールも回せるから、楽しいですね。自分たちがやってて楽しければ、見ている人も楽しいと思います」

前節横浜F・マリノス戦の試合後は、勝利に貢献しながらも「自分は結果を出し続けるしかないので、目に見える結果を出していきたいですね」と、FWとして得点にこだわるコメントも口にしていました。優勝の可能性がある次節・アビスパ福岡戦、伏兵・大塚翔平に注目です。

(取材・文/いしかわごう 写真/江藤高志)

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