「川崎フットボールアディクト」

【#オフログ】映画「勇者たちの戦い」あの震災とベガルタの戦いを、外国人視点で描写(ヨコハマ・フットボール映画祭2017)

あの試合のことはよく覚えている。
日本中が、津波に飲み込まれる東北沿岸部のライブ映像に震撼し、彼の地への同情と支援に気持ちを傾けていたその熱が冷めやらぬ時期のことだった。

それは、運命というものを強く意識せざるを得ない試合だった。被災した東北に居を構えるベガルタの、その再開試合が川崎を相手にしたものになる。この運命の巡り合わせには、心ならず驚かされた。なぜならば、仙台サポーターと川崎サポーターとの間には浅からぬ絆が長い年月を経て醸成されており、仙台サポーターの悲嘆や復興にかける情熱を、皮膚感覚で理解できる川崎サポーターが多数存在していたからだ。それだけの濃密な人間関係が築き上げられていたのだ。

だからこそあの試合は敵味方の別なく、スタジアムを包み込む大声量をもって仙台のチャントが歌われた。そうした交流についても触れられつつこの映画は進行していく。

イギリス人監督が作ったこの映画のハイライトは、2011年04月23日に等々力競技場で行われたJリーグの再開試合の描写にある。2001年に取材のきっかけをもらい、長い時間を掛けて川崎フロンターレというチームへの帰属意識を持つまでになったぼくは、そういう意味でフロンターレはただの取材対象だとは言えないチームだった。だから、ポーターと同じように川崎の勝敗に一喜一憂して来たが、そのぼくが負けたことに悔しさを感じない唯一の試合だった。

映画は田中裕介が決めた先制点を映し出す。この時、彼我の戦力差や環境の違いをもって、このままこの試合は1−0で終わると感じたのは事実だった。ただ、そこからのベガルタの粘り強い戦いは見事だった。73分に同点ゴールを決めた太田吉彰は、自らのゴールを倒れ込んだピッチ上で見届けていた。ハードワークを続けた彼は、足を痙攣させて立つことができなかった。映画はその後、87分の鎌田次郎の逆転弾を映し出す。その映像を目にしつつ、当時、どこか安堵したような心境になっていたことを思い出させてもらった。いつもの調子では試合を見ていられないおかしな試合だったという記憶が断片的に蘇ってきた。

そんな当事者としての感想はさておき、この映画を通してあの試合映像を見る人たちがあの試合をどう捉えるのかに興味がある。ぼくはJリーグが再開される喜びと、その試合が仙台を相手に行われることの両方の喜びが伝わる映像に涙した。そして、有名な試合後の手倉森誠監督のインタビューシーンに改めて心を動かされた。東北を襲った悲劇とそこからの回復の過程に、当地に根を下ろす当事者として関わる仙台の勝利は、確実に東北の希望になる。その思いがこもった手倉森監督の、ことばにつまるシーンは何度見ても泣けるものだった。

こうした映画が日本人の手によって描かれていないことに僅かばかりの寂しさを感じるが、だからといって外国人の撮影クルーによるこの映画の価値が下がるわけではない。と同時に、あれだけの災害を、サッカーを絡めて描写するという視点は、サッカーの母国だからこそ持てたのかもしれない。

そんな「勇者たちの戦い」は、明日2月11日開幕のヨコハマ・フットボール映画祭2017(http://2017.yfff.org/)にて上映される。ちなみに「勇者たちの戦い」は先日BSで放送されているが、一部編集されていたバージョンだったとのこと。ヨコハマ・フットボール映画祭2017ではノーカット版が公開されるとのことだ。

なお、ヨコハマ・フットボール映画祭2017では、勇者たちの戦いの他にもサッカーにまつわる映画が上映されているのでスケジュールを確認してみてほしい。まだまだチケットは買えるようだ。

タイムテーブル&チケット

(取材・文/江藤高志)

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ