中野吉之伴フッスバルラボ

SCフライブルクU15監督ツィンマラーから学んだ指導者としてのあり方とは?育成にかかわる人間が知っておくべき大事なポイント

▼U15年代では、枠にはめ込みすぎないのが大事

ツィンマラーはU15年代で取り組むべきことで重要なことをこう発言した。

「チーム戦術に力を入れすぎずに個々の判断力、技術、戦術的動きのレベルアップをファーストラインに置く。つまり、『枠にはめ込みすぎない』ということだ。チームとしての方向を示し、判断の元となる例を与えることは大事だが、決まりきったやり方で枠にはめ込むことはあってはならない。

もちろん練習でストップをかけて、修正を施すことはある。しかし、伝えるのは再現性の高い状況におけるセオリーであり、与えるのは、あくまでもバリエーションのヒントだ。答えではない。プレーに対する決断を下すのは、いつでもピッチ上の選手だということを忘れてはいけない」

こうした言葉に説得力があったから、彼に影響を受けたわけではない。ピッチ上でのコーチングが素晴らしかったから、だ。ゲーム形式の練習の最中、何から何まで事細かい指示を出したりはしない。普段から伝えていることを、キーワードに乗せて意識付けをしていく。

「ポジショニング!」
「スライド!」
「プレス!」
「深い位置にパスを!」
「ビルドアップ!」…等

「ポジショニング」という言葉を聞けば、選手たちは「何々に気をつけなければならないか」をわかっている。だから、周囲を見渡して、いま最適なポジショニングをする。

「深い位置にパスを!」と発したら、「FWが相手守備を外す動きをしながら縦パスを引き出す動きをし、周囲の選手がその縦パスから素早くサイドをえぐる攻撃をイメージ」して準備を始める。

そして、その日の練習テーマであったり、戦術的に見逃せないミスが出たときには大きな声でぴしゃりと「ストップ!」と声を変え、止める。すぐには話し出さない。周囲が注目するのを待ってから、ゆっくり話し出す。

「いまCBからボランチへいい形でパスが入った。そこから攻撃のギアを入れるいいチャンスだった。だが、パスを後ろに戻してしまった」

選手は真剣に耳を傾け、ツィンマラーは続ける。

「不用意な横パスやバックパスは、相手に守備組織を整え直す時間を与える。では、いま必要だった動きは何だろうか?」

問われた選手は、すぐに答える。

「状況をしっかりと認知しきれていませんでした。周囲を見ていれば」

すると、ツィンマラーは親指を立ててその答えを認めると、ちょっと間をとってから声のボリュームを一つ上げて切り出した。

「決定的に大事なのは! 体の向きと相手との距離だ。次の展開に持ち込みやすいようにボールと相手に対してオープンな体の向きをとるように」

そう言うと、またプレーを再開した。ゲームのインテンシティが、またさらに強まった。

「言葉はインストゥルメンタル。声の強弱、声の緩急があることで、大事なところを強調して伝えられる」

これは、私が敬愛してやまない「デットマール・クラマーさん」の言葉だ。言葉が正しいかどうかが相手に伝わるのかどうかではない。そこまでこだわること、それは、つまり相手に対しての思いの表れである。そこまで気持ちを込めるから、子どもたちは耳を傾けたいと思うのだ。

(残り 1778文字/全文: 3055文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ