「ゼルビアTimes」郡司聡

【短期集中連載】ゼルビア・ブルーの戦士たち。それぞれの2015シーズン/第5回・深津康太『ゼルビア愛。一つの終着点』

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選手の数だけ物語があるーー。唯一無二の目標だったJ2昇格を勝ち取った2015シーズン。“ゼルビア・ブルー”の戦士たちは、いかなる足跡を刻んできたのか。それぞれの選手の、それぞれの2015シーズンを振り返る短期集中連載。第5回はリーグ最少失点の最終ラインを束ねた深津康太の1年にフォーカスする。

 

▼リーグ最少失点の理由

一度、2シーズンにわたって東京ヴェルディを経由したものの、FC町田ゼルビアに加入したあとの深津康太の“ゼルビア愛”は深い。緑のユニフォームに袖を通していた当時も、町田の動向は「すごく気になっていた」。そして、2年の空白の時を経て、2013年に再び“ゼルビア・ブルー”のユニフォームを着る決意を固めた。

「町田に恩返ししたいという気持ちが強くて、このチームでJ2に行きたいという思いがあった。今までの僕は周りのみんなに引っ張ってもらっていて、僕が付いていったほうだったけど、次は僕が引っ張りたいと思った。このチームであればみんなを引っ張っていけるのかなと思ったし、だから本当に町田への思いはすごく強いですよ」

今季の深津はこれまで以上に“ゼルビアでJ2に戻る”という使命を背負って戦ってきた。ディフェンスリーダーとしてラインコントロールでは強気のハイラインを維持しながら、全体の陣形をコンパクトに保つことに腐心してきた。素早い攻守転換がチームコンセプトの一つである“相馬ゼルビア”にとって、コンパクトネスは生命線。1試合平均『0.5点』とリーグ最少失点を誇ったディフェンスラインは、「選手同士の距離感が良かったこと」で導き出されたと深津本人は自覚している。

「本当は10点以上を狙っていたんだけど」と冗談交じりに語った得点数はリーグ戦ではわずかに1点。チーム主将リ・ハンジェの4得点には遠く及ばず、リ・ハンジェが決めるたびに「うわやべえ」と思っていたという。とはいえ、DFの本分は守備。その意味ではリーグ最少失点という数字は、本人にとって誇るべき記録だった。

▼転機は第3クール・頂上決戦

リーグ最少失点に、J2昇格と、この上ない結果を手にした2015シーズンはすべてが順風満帆だったわけではない。安定したメンタリティーを保つことは深津の課題の一つだが、ときには彼の不安定なメンタリティーが試合中に顔をのぞかせることもあった。

それは勝ち点6差で迎えた首位決戦、第28節・レノファ山口戦。J3リーグ得点王をひた走る岸田和人による執拗な裏狙いで微妙にラインコントロールを乱された深津は、後半にPKを献上。かつてのチームメートである庄司悦大と一触即発の場面もあるなど、イライラを募らせたメンタリティーが試合のパフォーマンスに影響を及ぼし、チームも今季最多の3失点を喫して頂上決戦に敗れてしまった。この敗戦で首位チームとの勝ち点差は『9』へと拡大。首位の背中がやや遠のいた。

しかし、この苦い敗戦が深津を変えた。

「残り9試合をとにかく冷静に戦おうと、自分の中で切り替えた。反省もしたし、自分を見つめ直した。カッカしても仕方がない」

どんな戦況でも平常心で戦うメンタリティーは指揮官・相馬直樹監督が今季、口酸っぱく説き続けてきたこと。そうした指揮官の働きかけと逆行するように、首位との重要なビッグゲームで露呈したパフォーマンスは今季ワーストと言っても差し支えはなく、この山口戦の出来を深津は大いに猛省した。

翌節の第29節・Jリーグ・アンダー22選抜戦までの準備期間は、わずかに3日。完全に気持ちを切り替えるには期間が短かったが、逆にすぐに試合があったことがポジティブに作用した。リオ五輪出場を目指すU-22日本代表の主力メンバーが出場したJ-22選抜を相手に、深津は出色のパフォーマンスを披露。マン・オブ・ザ・マッチ・スポンサーが選定するMOMにも選出されるほどだった。

そして、シーズン終盤には抜群の安定感も出てきた深津は、守護神・高原寿康やCBの相棒・増田繁人とともに堅牢な最終ラインを形成。J2・J3入れ替え戦でも大分トリニータを1失点に抑えて、チームのJ2復帰を手繰り寄せた。

▼「チーム全員で同じイメージの共有を」

J2で戦う来季は、町田加入6年目を迎える。町田の在籍年数は、チームトップクラスで名実ともにチームの顔の一人と言ってもいい。試合中、常に深津がその背中を見ているというリ・ハンジェには「思う存分暴れてほしい」と期待されている。

攻撃陣のクオリティーが上がるJ2では、J3では決して入らなかったシュートがゴールへと直結することも少なくない。もちろん、個の力量で対応し切れない場面も出てくるだろう。それでも、町田の5番は「今季やってきた守るときと攻めるとき、そのメリハリを付けて、チーム全員で同じイメージを共有できればいい」とあくまでもチームで守ることを強調している。

ゼルビア・ブルーの戦士として初めて臨むJ2のステージ。チームのミッションであるJ2残留を果たすために、守備の屋台骨が経験値の少ないチームの柱となる。

Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)

【プロフィール】
深津 康太(ふかつ・こうた)
1984年8月10日生まれ、31歳。千葉県印西市出身。181cm/75kg。木刈FC→木刈中→習志野市立習志野高校→流通経済大学付属柏高校→名古屋グランパスエイト→水戸ホーリーホック→名古屋グランパスエイト→柏レイソル→FC岐阜→FC町田ゼルビア→東京ヴェルディを経て、2013年に町田へ復帰。J1通算4試合出場。J2通算115試合出場7得点。J3通算63試合出場5得点(2015年12月30日現在)。

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