久保憲司のロック・エンサイクロペディア

入門用音楽制作ソフト「ガレージ・バンド」でiPhone から録音しているソロ・アルバム『スティーヴ・レイシー’Demo-EP』がよかった (久保憲司)

 

ケンドリック・ラマーの『DAMN.』の7曲名「プライド」を作っている若干18歳のスティーヴ・レイシーが音楽を入門用音楽制作ソフトの「ガレージ・バンド」で、しかもPCからじゃなくiPhone から録音していると聞き、ソロ・アルバムスティーヴ・レイシー’Demo-EPを聴いたら、80年代のイギリスの白人が一生懸命ファンクやソウルをやろうとしていたあの感じがしていてよかった。

 

 

彼は黒人なんで、普通にやっているだけかもしれないが、普通のR&Bとどこか違った感じがする。アリエル・ピンクやマック・デマルコなんかがやろうとしていることと同じなんだけど、なんかもっといいんです。一言で言うと日記のような音だ。

ビートルズで言うと『ホワイト・アルバム』のようなアルバム。『ホワイト・アルバム』がどういうアルバムかと言うと、音楽制作に疲れた4人が自由に気ままに音楽をやりたいと思ったアルバムだ。音楽制作に疲れたと言うのはどう言うことかと言うと、ヒット曲を作らないといけない、制作費を出し、流通をやってくれるレコード会社の意向にそったことをしないといけない、4人で作っているから、4人の意見も調整しないといけないなどなど、みたいなことだ。

当時王様だったビートルズでもこうやって悩んでいた。王様はレコード会社と契約したアーティスト半年に一枚アルバムを出さないといけないという慣習もなし崩しにし、4人でインドに一ヶ月間も瞑想の修行の旅に出るなど、考えられないことをして来たんですが、あの頃の彼らがやりたかったのは日記のような音楽、インドでアコギで曲を作ったみたいなことをやれないかと言うことだったのです。

でも、そんなことはレコード会社は許さないわけです。売れないですから。そりゃポールも頑張って『マッカートニー』やジョンも『未完成 作品第一番 トゥー・ヴァージンズ』などをリリースするわけです。

日記みたいなことをやりたかったと言うのを別の言葉で言うと商売じゃないことをやりたかったということでしょう。

もっと他の言葉で言うと、昔はライブだけやって稼いでいたよね、そういう生活に戻りたいよなという思いだったのでしょう。

ビートルズの最後があの自分たちの会社の屋上での無料ライブだったというのは、彼らの気持ちが素直に現れたものだったような気がして、なんか最後まで劇的だったビートルズには本当に奇跡のようなバンドだったなと言う言葉しか思い浮かばない。

すいません、スティーヴ・レイシーの話からビートルズの話になって。でもこれって多分、バンドが生まれた時からの理想がついに実現しつつあるなと言う話なので。パンクがDIYだといってハサミで新聞切り抜きながら自分らのジャケット作っていたのも全部この思いだと思うんですよね。全部自分らでやりたい、自由になりたいと言うことだったのです。

 なんかそれが本当に実現しつつあるな。本当に音楽の革命が訪れそうな気がします。マック買ったら無料で使える音楽ソフトでついに音楽が作れる時代が来たのです。コンピューター買ったら世の中変えれると思ったときみたいな感動です。ずっと裏切られてきているんですけどね。SNSの時もそうですよ、これで世の中変えれると思っても何も出来ないんですけどね。最終的に大きな資本を持っているやつが勝つという。『スティーヴ・レイシー’Demo-EP』はなかなか画期的ですよ。俺も音楽やれるという気にさせてくれます。

 

本当いうとガレージバンドでアルバム作った人はたくさんいて、セント・ヴィンセントの2作目『アクター』も元々はガレージバンドで作られている。後から色々なミュージシャンが参加していって、どこがガレージバンドなのか分からない感じになってしまっていますけど。でも『アクター』を聴いていると、セント・ヴィンセントが家で彼女が大好きな30年代、40年代のディズニーやウッディ・アレンの映画を音を消して見ながら、そこに僕らがツィートしながらテレビを見るような感じで、ガレージバンドをいじりながら音を作っていったのだろうという感じがします。サンプリング一発で自分の気持ちを表現するかのように、ガレージバンドのいろんな音色で自分の気持ちを表現したような新しさを感じます。

 

 

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