久保憲司のロック・エンサイクロペディア

アーケイド・ファイア 『エブリシング・ナウ』 ・・・「ウィ・キャン・チェンジ」と叫んでも多分変えれないよ。でも俺は踊るしかないんだ (久保健司)

 

 

アーケイド・ファイアの4作目『エブリシング・ナウ』、アルバム・タイトルもカッコよく、このアルバムには入ってないですが、ステイプル・シンガーなゴスペル・ソウル・ファンクなシングル「アイ・ギブ・ユア・パワー」が反トランプで、今度のアルバムは政治アルバムになるのかなと期待したのですが、前作『リフレクター』な感じですかね。

 

 

 

だから全然悪くないんですけど、うーんという感じです。

90年代を代表するアルバムがレディオヘッドの『OKコンピューター』だとすると、00年代を代表するアルバムは絶対アーケイド・ファイアが作ると思っているんですが、前作『リフレクター』も今作もその域に達していないのが残念です。アーケイド・ファイアに僕は期待をかけすぎているのかもしれません。

カシオトーンなスレンテンなリフがかっこいい「クリエィチャー・コンフォート」「ネバー・エンディング・ストーリー」な王道曲「エブリシング・ナウ」、クラッシュ『サンディニスタ』な「サインズ・オブ・ライフ」、スィートなディスコ「エレクトリック・ブルー」などなど全部かっこいいです。

 

「クリエイチャー・コンフォート」から聴こえてくるスイサイドという言葉にドキッとさせられますが、歌っていることはSNSに全ての人生をかける若者たちへの批判という山本一郎ブログのような誰もが思いつきそうな内容で、ウィン・バトラーが“お風呂にお湯ためて、俺たちの一番最初のレコードを聴け”と歌っておりますが、本当にアーケイド・ファイヤーの一番最初のレコードは凄かった。一番最初のレコードとは『アーケィド・ファイヤーEP』のことでしょうか?それとも『フューネラル』のことでしょうか、いやどっちでもいい、この2枚は凄かった。こんな音楽今まで聴いたことがなかった。

00年代を代表するアルバムを作るのはアーケィド・ファイヤーと書きましたが、今は10年代なんですよね。だから00年代を代表するアルバムは『フューネラル』でいいのかもしれません。

葬式についてのアルバムが00年台を代表するアルバムでいいのかという気もしますが、結婚式や葬式などの儀式にとっても重要な意味を持たせてきた映画『ゴッドファーザー』や『ディアハンター』が名作になったんだから、『フューネラル』はロック史に残る名盤と言っていいんでしょう。『フューネラル』を始めて聴いた時はびっくりしました。そうか、この手があったか、なぜ今までポップ・ミュージックはこれに気づかなかったんだろうと思いました。

ウィン・バトラーがこういうことに気づいたのは彼がニュー・オーダーなどのマンチェスターのバンドを好きだったからです。ニュー・オーダーやスミスが歌っていたことは誰も気にしないマンチェスターのことです。それなのになぜ僕らは彼らの歌に興味を示すんだろうという思いから、ミクロな葬式についてのアルバムがあってもいいんじゃないかと思うのです。結婚式や卒業に関しての歌を歌えば、いろんな人が聴く機会が生まれるから結婚式や卒業の歌を作ればいいだろうというそんな安易な気持ちじゃないんです。

そりゃもちろん結婚式や卒業式に出れば感動します。“お前を一生幸せにしたい”とか、“これから頑張るぞ”とかという気持ちを素直に歌にしたいというにはよく分かる。でも日本の歌って、それ以上のこと、その向こう側のことを歌っていないのです。でも『フューネラル』には死と生に関する混沌とした思いが見事に歌になっているんです。それは葬式というミクロなものから、巨大なマクロなものへの変わっていっているのです。これが僕は最良のポップ・ミュージックだと思うのです。

今のアーケイド・ファイヤーはマクロな視点で歌いすぎていると思う。反SNSとか、反トランプとか、ネトウヨがよく言うパヨク的なものに陥ってしまっている。

「じゃ、どうしたらいいねん?」と尋ねられても僕はよく分からないですけど。何となく思うのはクラッシュの『サンディニスタ』見たいな事、クラッシュは反体制と思っていたら、えーサンディニスタ民族解放戦線、えらいところまで行くなみたいな感じ、難しいですけど。でもバンクシーはそういう事をやっているわけです。

でもそんなに簡単にはいかないですよ。バンクシーの正体はマッシブ・アタックの3Dか!?マッシブ・アタックのツアー先にいつもバンクシーの作品が現れる!あのね、ロック・バンドのツアーをなめないでください。そんな暇ないです。ライブやった後の夜中の2時とかに街に出て、絵を描いて、次の日の朝に次の場所に移動とかやってたら、1週間くらいで死んでしまいます。

アルバム出して、そして、来年にはまたフジロックのヘッドライナーです。うまくいけばその前の2月とか5月に武道館でしょう。みんな普通に仕事しているだけですから。

でも、僕はアーケイド・ファイヤーにすごいことを求めてしまっているのです。

 

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