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【アカデミー通信】湘南ベルマーレユース・時崎悠監督インタビュー「選手を育て、ベルマーレのトップチームにきちんと残していかなければいけないと強く感じている」(前編)

ベルマーレ平塚時代からこの地でプレーし、現役引退後は福島ユナイテッドでコーチや監督を歴任した。昨季コーチとして湘南ベルマーレユースに携わり、今季より監督に就任。間もなく始まるクラブユース選手権関東2次予選を前に時崎悠ユース監督に話を聞いた。
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●湘南ベルマーレユース(U-18)は現在、プレミアリーグ、プリンスリーグに次ぐ神奈川県リーグ1部に所属しています。チームとしてどのような目標を掲げていますか?
「ベルマーレユースとしては、上のカテゴリーに上がってレベルの高い相手と切磋琢磨し、選手の強化を図ることがベストだと思っているので、まずはプリンスリーグに戻さなければいけないと僕は思っています。と同時に、いま高校生の彼らが大学に進学する場合、全国大会に出ているか出ていないかがひとつの基準になることが多い。つまりそれによって推薦の枠が変わってくるので、選手たちの進路を考えたときに、プロになれる子は問題ありませんが、クラブユース選手権の関東予選を勝ち抜いて全国大会に出場することも大切なことと考えています」

●全国大会に駒を進めることには、選手たちの将来を担保する側面もあるわけですね。
「そうですね。またプリンスリーグに上げたり、全国大会に出場したりすることだけでなく、トップチームで活躍できる選手に育てなければいけないという使命もあります。去年ユースに所属しながらトップチームに2種登録した前田尚輝(現福島)然り、また現在高校2年の齊藤未月も今季トップのトルコキャンプに参加して大きく変わり、このたび2種登録されました。そういう刺激をベルマーレは与えられるクラブだと思っているので、選手の伸びしろを思えば、たとえばユースの公式戦とトップの練習試合が重なったら、僕は喜んでトップの練習試合のほうに送り込みたいと思っています」

●チームの外に飛び出して得られる刺激が成長に繋がる。
「はい。僕も自分の高校時代を振り返ると、栃木県の作新学院で完全に王様気取りでプレーしていたんですけど(笑)ベルマーレの練習に呼んでもらって、あ、全然できないんだと感じただけでそのあと変わったんですよね。変わることができたし、先生が言うことも聞き逃さないように全部吸収していかなければいけないという自覚も持てた。だから、そういう刺激を与えることはすごく大事だと思っています。一方で、自信を持てずに相手の名前に萎縮してしまうような選手も少なくないので、生意気な芽はあえて摘まないようにしています」

●いま話に出たタスクを柱としていま指導されている。
「そうですね。また、指導者として勝負していきたいという僕自身の想いもあります。福島で監督をやっていたときに、選手に自信を与えたり、選手を伸ばしながらチームを強くしていったりする術を僕は持っていなかった。このままだと選手の能力やクラブがいい選手を取ってきてくれないといったことを言い訳にするような指導者になってしまうんじゃないかと思ったので、一度育成を学び、選手に自信を与えたり能力を伸ばしてあげたりできる指導者にならなければいけないと強く思っています」

●福島で監督を務めたあと、ベルマーレで指導することになった経緯を教えてください。
「当時ユースの監督だった石川隆司さん(現トップチームアシスタントコーチ)とA級ライセンスを取るときに一緒で、曺さん(曺貴裁監督)とは面識がなかったのですが、育成に定評があることは知っていましたし、ベルマーレのサッカーもずっと見ていたので、指導者として純粋に興味を抱いていました。僕は福島の監督をしていたので、残りのシーズンを戦うヒントも少しでももらえるならと思い、2013年8月のJFLの中断期間中に3日間ほど研修に来たんです。トレーニングを見させてもらいましたが、そのメニュー云々というよりも、選手の気持ちを乗せたり、緊張感を持たせたりする曺さんの言葉の力に僕は魅力を感じ、夜一緒にごはんに連れて行ってもらってサッカー観の話をしたときに、あ、こういうひとのもとで一度勉強してみたいなと思いました。シーズンが終わり、大倉さん(大倉智代表取締役社長)が福島に来てくれて話をしたときに、ベルマーレのサッカーを学びに行こうと迷わず決めました」

●2013年の研修の際、曺監督と食事をしたときにはどんな話を?
「トキ(時崎)は守備の選手だったからこそ守備の組織をつくることはすごくできていると思うけれど、でも攻撃がサッカーの最も魅力的な部分だと感じられているのなら、ここから先は、いかに失点しないかよりもいかに点を取るかというところに目を向けたほうがいいんじゃないかという話をされて、それがいちばん響きました。嫌なことをやり続けたら相手は嫌だし、前を向かない選手やシュートを撃たない選手は怖くない。守備のベースがしっかりできているのなら、そういうところを追求していけばチームは変わるんじゃないかと言われ、福島に戻ってから僕も攻撃に取り組むようになったんです。勝点には結びつかなかったんですけど、得点数はすごく増えましたし、攻撃のことを要求したりアイデアを出したりして選手が生き生きとトレーニングに取り組んでいる様子を見て、やはりこういう雰囲気で練習をやらなければいけないし、サッカーにとってすごく大事な部分だなと感じた。福島は勝てなかったですが、攻撃的なチームになっていき、それとともにスタジアムも盛り上がっていきました。ベンチの後ろから聞こえる声やお客さんが熱狂する雰囲気が明らかに変わってきたと感じ、僕がこれから指導者としてやっていくなかで絶対外してはいけない部分だと再確認できた。だからベルマーレから話をいただいたとき、迷わずに引き受けたいと思いました」

●曺監督の言葉は時崎監督のなかでは新しい目線だった。
「ハッとなりました。もともと僕、モウリーニョ(現チェルシー監督)が好きなんですよ。スーパースターにも組織的に守備をさせ、相手がどこであれ勝利にこだわる。また、ベガルタ仙台の元監督の手倉森さん(手倉森誠現U-22代表監督)とも同じ東北ということでよく話をさせていただき、手倉森さんも、自分たちの力関係を理解したうえで選手に納得して守備をさせることがすごく大事で、それができないチームは絶対に勝てないと話していた。僕も同様の感覚で、まずは守備から入り、攻撃は相手が嫌なカウンターを狙うことを第一に考えていたんですけど、選手や観るひとたちの反応を見ても、まずは攻撃を考えることが勝ち負けを超えた部分ですごく重要だと気付けた。指導者としての自分自身の成長を踏まえても、そこは外さずに突き詰めていくべきだと思いました」

インタビュー後編へ続く

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