「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第1回 一瞬から流れ出す時間(2016/03/02)

第1回 一瞬から流れ出す時間

日常の何気ない光景に触れ、よくわからない感慨にふけることがある。試合を見ていて、あるいはランドでの一コマ、なんでもないシーンに心が惹きつけられる。正体不明なのが、じつにもどかしい。

先日、練習が終わったあと、冨樫剛一監督と平本一樹が話していたのを見たときがそうだった。

僕がランドに出入りし始めたのは、2001年だ。いまでこそ平本はベテランとしてチーム内のポジションを固めているが、当時はプロ2年目の若手。コーチからチャラモトとからかわれ、やんちゃが過ぎて事あるごとに坊主にさせられていた。監督室へ向かう階段を昇るとき、とびきり神妙な顔をしていたのを憶えている。

一方、冨樫監督は遠征の手配などをするマネージャーだった。人並み外れて気配りのできる人だ。さぞかし優秀な仕事をしたと思う。

マネージャー業は激務である。チームのストレスをできるだけ軽減することに心を砕き、強化部や事業部との橋渡しも行う。板挟みになることも珍しくない。仕事にてんてこまいだった冨樫マネージャーが、平本に分厚い時刻表を投げつけたことがあったそうだ。大概の出来事は笑いに転化する人が激怒したのだ。平本はよほど自分勝手な、気に障ることを言ったのだろう。

それから十数年の時を経て、監督とベテラン選手の間柄になったふたりが話している。冗談を言い合い、楽しそうに笑っている。その光景がやたらと胸に迫ってくる。彼らのほんの一部しか知らない僕は、ほとんどが想像なのだけど、そこから流れ出す豊かな時間、さまざまな曲折を感受する。

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