「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【マッチレポート】J2-12[H] 松本山雅FC戦『すべてにおける敗北』(2016/05/07)

2016年5月7日(土)
J2第12節 東京ヴェルディ vs 松本山雅FC
16:03キックオフ 味の素スタジアム
[入場者数]8,664人 [天候]晴、弱風、気温25.1℃、湿度61%

東京V 0‐4 松本
前半:0‐2
後半:0‐2
[得点]
0‐1 宮阪政樹(8分)
0‐2 高崎寛之(28分)
0‐3 高崎寛之(51分)
0‐4 高崎寛之(59分)

●東京Vスターティングメンバー
GK1   柴崎貴広
DF2   大木暁
DF3   井林章
DF5   平智広
DF16 中野雅臣
MF28 楠美圭史(58分 ドウグラス)
MF8   中後雅喜
MF2   安西幸輝
MF14 澤井直人(79分 南)
FW25 平本一樹
FW7   杉本竜士(46分* 高木善)
(ベンチメンバー:GK26太田岳志。DF15ウェズレイ、23田村直也。MF10高木善朗、11南秀仁。FW17ドウグラス・ヴィエイラ、29北脇健慈)

監督 冨樫剛一

■井林章のジレンマ

井林がマッチアップすることになるだろう、松本のワントップは188センチの高さと強靭なボディを誇る高崎寛之。相手にとって不足なしだ。空中戦はがたいの大きさだけで勝負が決まるものか。ハイボールは全部跳ね返してやると意気込んでいた井林だったが、一向にボールが飛んでこない。自分のいない左サイドに飛来するロングボールを見送るしかなかった。

前半の途中、井林は近くにいた高崎に「どうしてこっちに蹴ってこないの?」と訊ねた。すると、「おまえのとこを外してんだよ」と高崎は言った。ふうん、そういう戦術的な狙いをあっさり話してくれるんだと面白く思った井林だが、面白がっている場合ではなかった。

松本は高崎と山本大貴のどちらかが右に流れ、不慣れな左サイドバックの中野を明らかに狙い撃ちしている。では、自分が平とポジションを入れ替え、中野をカバーするか。いや、今度は右の大木に狙いが移るだけである。手の打ちようがなかった。松本の反町監督にとっては、戦術の初歩の初歩といったところか。

8分、東京Vは宮阪に直接フリーキックを決められ、松本にリードを許した。「警戒していたセットプレーで早い時間に失点したのは堪えた。たしかにいいシュートでしたけど、どんな形であれゴールを許したのはまずかったですね」と井林は悔いるが、相手はリーグ屈指のプレースキッカーだ。壁の上をぎりぎり越え、スピードもあった。おそらく柴崎はボールを隠されており、反応するのは難しかっただろう。忘れるしかない失点である。

問題は、28分の2失点目だ。中盤から出た浮き球のパスを當間建文に頭でそらされ、岩間雄大に抜け出されそうになる。対応した平は身体を倒しながら辛くも突破を防ぐが、こぼれ球を拾った中野が処理を誤り、工藤浩平にボールを奪われる。中野は後ろから圧しかかって倒し、笛を吹いた西村主審はペナルティスポットを指さした。東京Vは致命的とも思える2点目を失った。

東京Vのビルドアップは、極力ゴールキーパーまでボールを戻さない。柴崎は大きく蹴ることがほとんどで、結果的にボールを失うことになるからだ。原因は足元の技術不足と、相手のプレッシャーをもろに受けるデリケートなメンタル。そのため、最終ラインは常に苦しい状態でのボール回しを要求されている。年々、井林のフィードはめきめきと上達しているが、それでも得意とまではいかない。ミスが増えるのは道理だ。

もうひとつ、井林の仕事を難しくしているのが、メンバーの定まらない4バックである。開幕から先発を続けるのは井林のみ。選手が入れ替わるたびに、ラインの統率や守備の連係は調整を迫られる。以上、井林は愚痴っぽいことを一切こぼさないが、僕の眼には一選手のキャパシティをとっくに超えているように映る。

自分たちが少しよい形でやり切れると思った矢先に、何もないところから相手に得点が生まれてしまった」と冨樫監督が語るように、東京Vの出足はよかった。安西のスピードに乗ったカウンターアタック。火の玉小僧、杉本のプレスバック。楠美は狙いのいい縦パスを入れた。「内容的に点差ほどの差はなかったのでは。ヴェルディのシャープな動きと正確なボールコントロールには苦しめられた」という反町監督の感想は正直な成分が多めに含まれていると思われる。実際、0-2とされるまでは、好ゲームの予感があった。

仮に早い時間の失点がなかったとして、大勢にどれほど影響があったか。あるいは18分、東京Vにとって前半唯一の決定機、中野が入れた絶妙のクロスから、杉本のシュートが喜山康平にブロックされずにゴールが決まっていたとして、同点のまま前半を折り返せたか。あからさまに弱点を露呈する東京Vが、無事に守りおおせたとは考えにくい。

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