「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【SBG探偵局】file1『息子の小学校入学』(2016/05/27)

file 1  『息子の小学校入学』

SBG探偵局の開設を知った読者から依頼が寄せられた。依頼主は知り合いのN夫妻。どうやら2歳の息子のことで心配事があるらしい。

家族3人、府中市で暮らしています。ご存知のとおり、府中はFC東京のホームタウンです。商店街には青赤のフラッグがはためいています。2歳の息子は、ヴェルディが大好きです。マッチデープログラムの選手を指差してはチャントを口ずさみ、夜はベッドで飛び跳ねながら気が済むまで歌ってからでないと寝つかない始末。また、持っている服は大半が緑色です。よく服を送ってくれる祖母も息子がグリーンを好むと知っているため、増える一方で。
まだ4年も先なんですが、こんな調子で府中の小学校に上がって大丈夫だろうかと心配になります。ヴェルディサポーターの私たちの影響を受けた結果、FC東京ファンの子どもたちのなかで多勢に無勢。クラスで孤立するようなことになりませんでしょうか。地元が府中の杉本竜士選手や中里優選手にそのあたりのことを訊いてもらえると助かります。よろしくお願いします。

■大事なものは心のなかに

探偵はランドに遊びに来たN夫妻と息子に会ったことがあった。息子はクラブハウスの玄関に飾られているポスターを指差して「ひらもとかぢゅき」と言い、冨樫剛一監督に抱っこもされている。穏やかな性格の両親のもとで、心根のやさしい子に育つだろう。

早速、探偵は杉本に事情を話した。なお、中里は代表に招集され、あいにく不在だった。

「おれ、小学校から私立なんですよ。だから公立の事情はよくわからなくて。要は、ヴェルディが好きで、みんなからハブかれるんじゃないかって話ですよね。いまの時代、いじめもコスくなっているみたいだし、そのリスクは取らなくていいんじゃないかなあ。カミングアウトして仲間が増える可能性もありますけど、それにはよほどメンタルが強くないと。ヴェルディはいつも心のなかにある。それが一番大事だと思います」

杉本は荒っぽいアドバイスを送るかと思われたが、わりと冷静だった。大事なものは心のなかに。江戸時代の隠れキリシタンを思わせる。

探偵は実態の調査へと向かうことにした。下校時刻に合わせ、府中の小学校に張り込むのだ。だが、このご時世、カメラを持ったおっさんが小学校の前でうろうろしていて見咎められないものか。しかも伊勢志摩サミットの開催を控え、街は厳戒警備中だ。かなりの高確率で警察のご厄介になりそうに思える。

そこで探偵は一計を講じた。こういうときの定番、カップルを偽装するのである。運のいいことに、知り合いの女性が「カップルの偽装はまっぴらゴメンですが、付き添いならいいでしょう」と了承してくれた。こうして探偵と助手は府中へと向かった。ターゲットは南白糸台小学校である。

 

味の素スタジアムの最寄り駅である飛田給のひとつ隣。京王線武蔵野台駅。

味の素スタジアムの最寄り駅である飛田給のひとつ隣。京王線武蔵野台駅。

駅前には青赤のフラッグがなびく。

駅前には青赤のフラッグがなびく。

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