【SBG探偵局】file3『王道の猫探し』(2016/10/14)
file 3 『王道の猫探し』
「おれはさ、サツジン事件とかを華麗に解決したいわけよ」。夕暮れ時、窓辺に佇む探偵がぶつぶつ愚痴っている。話し相手は飼っている白文鳥の文太。物騒なうえ、身の程知らずとはこのことだ。
探偵は、左手に持つバーボンのロックのグラスを傾け、氷をカランと鳴らした。探偵と言えば、バーボン。じつに浅はか、じつにステレオタイプ。下戸のくせに、なぜこれをやりたがるのか。酒の匂いだけで、ほぼ酩酊状態であった。どうせならBARへ行け、BARへ。
ぐだぐだとくだを巻く探偵のもとへ、ひとつの依頼が舞い込んだ。依頼主は「板橋のKSM」となっている。
いつも楽しく読ませていただいております。探偵の王道がまだ出てないようなので、依頼させてください。
「猫探し」
選手のなかで猫を飼っている人もいると思うんです。澤井選手は公表されてますが、澤井選手の猫より年上の猫や体重の重い猫はいるのか? 気になります。暇が出来たら宜しくお願い致します。
余談ですが、猫好きは相手が猫を飼っていると知ると心の壁を外す効果があります。(犬は違う) 選手間のコミュニケーションも違う切り口から取れるので面白いかと。逆に「猫嫌~い」などと言ってしまうと、人としてブロックされて しまう可能性がありますので、「好きなんですけどアレルギーで……」と返すのが正解ですw
探偵はつぶやいた。気絶するほど、どうでもよくないか――。が、これも仕事だ。おそらくは、ひまを持て余しているだろうSBG探偵局を気遣っての依頼と見られる。ほかにやることもない。行くか。探偵はふらふらした足取りで、玄関に向かった。
■レック(オス・14歳)
午後、その日の練習が終了し、ひっそりと静まり返った東京ヴェルディのクラブハウス。
「澤井選手、とある調査でやって参りました。お忙しいところすみませんが、少しご協力願えますか?」
探偵がそう呼び止めると、「出た、出た」と澤井は朗らかに笑う。好奇心旺盛はこの人のいいところだが、どこまでサッカーの役に立つかは定かではない。
まずはファクトチェックからだ。本当に猫を飼っているのか。探偵は証拠の提示を願った。写真の1枚や2枚はあるだろう。
澤井はスマホをいじくりながら、「どれがいいかなあ。たくさんあるんで」とのんきに選んでいる。そして、チョイスしたのがこれだ。
探偵は、ふうん、かわいいねとお愛想を言った。正直な感想は、思ったよりデカいである。
レック(オス・14歳)。名前は、澤井が小学生の頃に所属した、蓮田レックスFCスポーツ少年団から取ったそうだ。
「遠征で家を空けたとき、帰ったら玄関にちょこんと座って待っているんですよ。そのときがかわいさのピークっすね。たまらなくなって、抱きしめます!」
探偵は澤井の話を聞きながら、自分はいったい何をしているのだろうと急に落ち着かない気持ちになったが、とりあえず話を先に進めた。
板橋のKSMさんは「猫好きは相手が猫を飼っていると知ると心の壁を外す効果があります」と言っている。そういうものなのか?
「まあ、盛り上がりますよね。受け入れる心は広くなるかな」
では、猫は嫌いと言われると、心のシャッターを下ろしてしまう?
「嫌いって言わなくてもいいのに、とは思います。僕は犬も好き」
自由気ままで、犬と違って従順ではないところが、かわいげがなく感じられるのかもしれない。
「そこが猫じゃないですか。だんだん懐いてきて、心を通わせていくのがいい」
そうだね。さて、本題に入ろうか。あなたのほかに猫を飼っている選手は誰?
「いや、聞いたことがないですね」
えっ、いないの。この際、選手ではなく、コーチ陣やチームスタッフでもいいのだが。そこで、倉林広報に助けを求めたところ、「犬を飼っている選手は何人かいるんですけど。たぶん猫はいないですよ」とつれない返事である。
探偵は通りかかった高木大輔に訊ねた。猫を飼っていませんか?
「実家に犬はいます。やっぱ犬っすよ。犬、犬」
うそでしょ。まさか、終わりか。これで終わりなのか。
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