「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2016シーズン 緑の轍』序章(2016/12/07)

未来のエースと期待を集める高木大輔の視線は、すでに来季へ。

未来のエースと期待を集める高木大輔の視線は、すでに来季へ。

2016シーズンの東京ヴェルディは18位に終わった。勝点43。10勝13分19敗、得失点-18。得点43、失点61。チームのトップスコアラーは、高木善朗の8点。以上の数字が、今季の最終成績だ。
2015年は、夏場の快進撃で一時は3位に浮上しながら、終盤の失速により昇格争いから脱落して8位。それを受け、今年はJ1昇格をリアリティのある目標として掲げた1年だった。ところが、待っていたのは波に乗り切れない苦闘の日々。よもやの残留争いに引きずり込まれ、どうにか逃げおおせるだけで精一杯となった。

 序章 今年のことは今年のうちに

 ■3万人のスタジアムでも通る声を

11月22日、その日チームはオフだというのに、数名の若手がグラウンドに出ていた。杉本竜士、高木大輔、澤井直人、井上潮音、林昇吾、渡辺皓太。そして、東京ヴェルディユースのゴールキーパー、田中颯。

志賀淳コンディショニングトレーナーによる、パス&ムーブのトレーニング。高木大が井上に激しい口調で要求する。

「ボールを受ける前に声を出せ、声を!」

「どうした、オンナみてえな声を出しやがって」

井上の、ハイッ、ハイッという声がだんだんボリュームを上げる。その様子を見ている僕は、可笑しくて仕方がない。いいぞ、面白いからもっとやれとニヤニヤしながら眺めていた。

「あのな、大輔。このメニューはそこまで声は」と志賀が小声でなだめようとするが、「どんなときでも、しゃべるくせをつけなきゃダメなんですよ」と高木大が言い返す。

「オラオラ、3万人入ったスタジアムじゃ、そんな声は聞こえねえんだよッ」

高木大の頭には、大観衆で溢れかえる味の素スタジアムのイメージが広がっている。ゴールを決めて、四方八方からの喝采に応える心構えはとっくにできている。未来のエースと期待を託し、ずっと緑のシャツを着続けてほしいと願うなら、それに少しでも近づけていくのは周囲の人間の責任だ。

シーズンを戦い抜いた疲れなど、どこへやら。活力に満ちる若者たちは常に前を見ている。自らの力で新しい世界を切り拓こうとしている。その果敢な姿勢は、クラブの希望そのものと言っても過言ではない。

そこで、過去の足跡をたどり、誤算を生んだ原因やすれ違った理由を探る仕事は、外野に任せてもらおう。似たようなシチュエーションが再来する可能性はあり、今後の参考程度には使えるかもしれない。

今回のシリーズでは、シーズン中に書きもらしたことに加え、あらためて集めた監督、選手、強化責任者の証言を材料に、ポイントごとに整理していく。これまで僕はクラブのさまざまな施策に対し、「言いっ放しのやりっ放し」、「結局、その場しのぎで真摯な反省がないから進歩しない」と批判してきたので、しれっと通り過ぎるわけにはいかないのだ。

今年のことは今年のうちに。やるべきことをやって、すぱっと切り替えたい。年が明ければ、新しい冒険の日々が待っている。

(検証ルポ『2016シーズン 緑の轍』序章、了)

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ