「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第15回 大河の一滴(2016/12/22)

11月26日の川崎フロンターレU-18戦、東京ヴェルディユースは喪章を腕に巻いてプレーした。写真は松本幹太。

喪章を腕に巻いてプレーする、東京ヴェルディユースの選手たち。写真は松本幹太。

11月26日、プリンスリーグ関東第16節、東京ヴェルディユース vs 川崎フロンターレU-18。東京Vの選手たちは喪章を腕に巻いてプレーした。20分、オーバーラップした平田竜士が右サイドを割り、ニア上にズドンとシュートを突き刺して先制ゴール。平田は喪章を天に掲げ、ピッチを疾走した。

このゲーム、東京Vは平田の追加点で2点リードを奪ったが、川崎に追いつかれ、2-2のドローに終わっている。

「北條さんは自分たちにとって一番のサポーター。試合だけではなく、練習にも足を運んでくれて、写真を撮ってもらいました。今日だけはどうしてもゴールを決めたかったんです。決めてやると思っていた。試合前、みんなで勝利を贈ろうと話していたのに、それができなかったのが残念」

平田はそう話した。藤吉信次監督は言う。

「いつもグラウンドの入り口に北條さんがいて、握手をしてピッチに入るのが習慣でしたね。『ヴェルディユースが僕の生きがいなんです』と話されていて、そういう方がいるのは心強かったです」

川崎戦は北條さんの納骨の日と重なり、試合後、藤吉監督は小笠原資暁コーチらとともに墓前で手を合わせている。

「選手たちには、いつか時間のあるときにお墓参りをしてほしいと話しました。川崎戦のあと、みんなで連れ立ち、すぐに行ってくれたみたいでうれしかった。ああ、あいつら、そういうところでもちゃんと成長しているんだなと」(藤吉監督)

僕は、愛とかそういうのは全然わからなくて、それをキャッチフレーズとして軽々しく扱う人たちから距離を置く。死してなお、人に序列をつけるのも感覚的に苦手だ。戒名なんて、断固としてもらってやるものかと思っている。唯一、緑者のお坊さんと知り合ったら、頂戴するのもやぶさかではないが。

北條さんは、そしてやがては僕も、ヴェルディという大河の一滴になる。全国のアウェー遠征に駆けつけるツワモノも、世界の片隅でひっそりと応援している人も、みんな一緒だ。一緒くたにされるのは気に入らない相手もいるだろうが、そのへんの細かい話はもうなし。やる気ナッシングでカネだけもらっていったバドン元監督だって、どうぞどうぞである(お元気みたいですけどね)。

そういう心持ちでいると、この世とおさらばしたあとも案外悪くないなと思える。ちなみに、五木寛之の『大河の一滴』(幻冬舎文庫)は未読のため、これとは話の趣旨が異なるかもしれない。

河は、悠々と流れる。どこまでも遠く、地平線の向こうまで果てしなく続いている。

 

喪章を掲げる平田竜士。

先制ゴールを突き刺し、喪章を掲げる平田竜士。

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