「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【新東京書簡】第二十二信『正気と狂気』海江田(17.7.19)

新東京書簡

第二十二信 正気と狂気

■時代のスピード感についていけない

近頃、ためらってばかりですよ。

6月、東京ヴェルディの主催試合としては1年半ぶりに1万人を超えた名古屋グランパス戦。試合前、クラブのメインスポンサーであるISPSの半田晴久会長の国歌斉唱があった。

『君が代』、起立。おれはノンポリだから、流れ作業のようにそうしてきたんだけど、今回ばかりはためらった。チームには、ドウグラス・ヴィエイラ、アラン・ピニェイロというブラジル人選手がいて、ロティーナ監督とイバンコーチはスペイン人。サポーターも国籍は日本とは限らない。国家の枠組みを取っ払い、ナショナリズムを超越したところにクラブの本質的な価値はある。

これはなんのための『君が代』なんだろう。おれが腰を上げるのをためらう一方、周りはちゃんと立っていた。おいマジか、そういうものなのか。その場で浮いてしまう恥ずかしさもあって、結局、座ったまま下を向いていた。ロティーナ監督をはじめ、外国籍の人たちには、どうか深く考えず、景気づけくらいに思ってくれるように願った。

こないだ、東京Vが獲得に手を挙げたフランチェスコ・トッティの件もそう。聞いたことを記事にするのは可能だが、実際、信憑性はいかほどあるのか。一選手の獲得報道に際し、わざわざ羽生英之社長が囲み取材の場を設けたのは何を意図するのか。おれがためらっているうちに、仕事の早い人はぱぱっとまとめてネットに記事が上がる。

ネット時代のこのスピード感! 紙媒体が主役だった頃は、編集者とライターが相談し、はたして掲載に値するのか話し合ったものだけど、いまはそんなまどろっこしいことは省かれがちだ。WEBマガジンの場合、ひとり編集会議である。背景を知りたく、あるエージェントに連絡すると、「最近その手の話が多いね。自分のところにもフェルナンド・トーレスの売り込みがあったよ」なんて聞き、ますます書けなくなった。

そうこうしているうちにトッティの件は破談となり、事態は終息していく。自分はこういうためらいを抱えたまま生きていくんだろうな、めんどくせえなと思う。

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