【フットボール・ブレス・ユー】第24回 東北夏紀行・前編『監督は楽しい』 ~ブラウブリッツ秋田 杉山弘一監督~(17.9.6)
第24回 東北夏紀行・前編『監督は楽しい』 ~ブラウブリッツ秋田 杉山弘一監督~
目を閉じれば、安西幸輝の鮮やかなミドルシュートの残像。8月20日、東京ヴェルディがV・ファーレン長崎を2‐1で下した翌日、僕は朝一番の便で機上の人となり秋田へ向かった。
今季のJ3、開幕から15戦負けなし(11勝4分け)で首位を快走し、旋風を巻き起こしているブラウブリッツ秋田の杉山弘一監督にインタビューの機会を得た。掲載誌は、9月24日発売の『アジアフットボール批評 issue05』(カンゼン)。かねてより僕は杉山監督の仕事に興味があり、いつかやりたいと温めてきた企画をこの度ようやく拾い上げてもらった。
秋田空港からリムジンバスに乗って、およそ30分。秋田県庁の向かいにあるスペースプロジェクト・ドリームフィールド(秋田市八橋運動公園第2球技場)に到着した。練習開始は10時半。1時間ほど余裕があり、近くのファミレスで待機となった。
現役時代の杉山監督は、1999年から2002年までの4シーズン、東京ヴェルディ(ヴェルディ川崎)に在籍している。01年の東京移転のタイミングで取材を始めた僕は、後半の2シーズン、選手と記者の関係だった。出場機会が限られていたせいもあり、話す機会は多くなかったが、常にやさしく丁寧に応じてくれたのを記憶している。気さくで、人に対して構えたところがない。こういう選手もいるんだなと思った。
この日はリカバリートレーニングで、杉山監督は遠目から選手たちの様子を観察していた。僕が興味を覚えるのは、現役時代は脇役だった人の世界観である。スポットライトを浴びるスター選手の陰で、全体を俯瞰しつつ細々としたことを見、人の話に耳を傾け、じっくり考えを深め、そうして蓄えてきたのが指導者となって豊かな実をつけるケースは少なくない。
インタビューは、あきぎんスタジアムの一室で行われた。杉山監督の雰囲気は選手の頃とほとんど変わらない。明朗にして快活。
「そのへんは自分のキャラですね。僕がヴェルディにいた時期は、駆け出しの頃ですか。ベテラン臭出てましたよ」
杉山監督はからから笑う。恥ずかしくて、尻のあたりがもぞもぞした。僕は24歳からライター稼業を始めたが、当時、サッカーの取材はまだ2年目。なめられてはならぬと虚勢を張っていたのである。
「秋田は環境がいいですね。練習できる場所がたくさんあって、設備の整っている施設もあります。僕自身は自然体でやってますよ。選手との距離感も特に意識することなく。もともと人と話すのが好きだし、サッカーについて考えるのが好き。おかげでストレスはないです。監督、すっごく楽しい」
監督の仕事を楽しいと話す人はあまりいない。楽しさよりも、責任の重さやプレッシャーが前にくる仕事だ。
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