宇都宮徹壱ウェブマガジン

過去記事:日本サッカーの地位を脅かすアジアの脅威 Jリーグメディア説明会「世界のサッカーの潮流について」<前篇>

<「徹マガ」2015年4月24日号(通巻第238号)>

今号と次号の2回にわたり、今月9日に開催されたJリーグメディア説明会「世界のサッカーの潮流について」の模様をお届けすることにしたい。本題に入る前に、まずは「メディア説明会」について説明しておこう。わかりやすく言うと、Jリーグの海外視察の結果をメディアとシェアするための「勉強会」である。この日は、新聞社や専門誌、さらにはフリーランスを含めておよそ40人近くの記者が集まった。

この「メディア説明会」のプレゼンテーターは、Jリーグ常務理事の中西大介氏。中西氏といえば2年前、J1リーグの2ステージ制導入の理解をファンに求めるために、さまざまなメディアに露出していたことでご記憶の方も多いだろう。私自身もスポーツナビのインタビュー企画で、中西氏からじっくりお話を伺っている。

インタビュー前篇後編

ありていに言えば、今回の説明会(というか勉強会)については、当初あまり思い入れは感じなかった。しかし中西氏が伝えてくれた情報は、3つの意味で非常に新鮮でインパクトがあった。まず、日本はもはやアジアで安穏としていられなくなったという現実。次に、Jリーグは大いなる危機感をもって世界のサッカーのトレンドをリサーチしているという事実。そして、こうした重要な情報がメディアからではなくJリーグから発せられたことについては、業界で禄を食むものとして重く受けとめるべきであると痛感した次第だ。

いずれにせよ、この説明会で得られた情報は、業界内にとどまらず広く認識されるべきものであると判断。徹マガでは、中西氏のレクチャーをできるだけ読みやすく再構成して、2回に分けて掲載する。前篇となる今回はアジア・サッカーのトレンドとして、中国、ASEAN、そしてカタールの「今」をお伝えすることにしたい。(取材:2015年4月9日@東京)


(C)Tete_Utsunomiya

■世界は欧州の一極集中から多極化へ?

本日はお集まりいただき、ありがとうございます。去年のワールドカップのあとに、(村井満)チェアマンが「日本が勝てなかったのはJリーグも責任を負っている」と言っていました。われわれに足りなかったものは何か。もう一度、世界の中のJリーグの位置付けを見直したい、というのが今回の勉強会の目的です。

世界のサッカーは、今もヨーロッパを中心にお金と人が動いています。その傾向は変わらないのですが、実はアジアと北中米を中心に、今までとは異なる流れが出てきているという認識を持っています。一極集中だったのが、やや多極化に向かっている。そういう印象を持っています。そうした欧州以外の進歩というのは、われわれにとって非常に脅威だと思っています。日本サッカーの20年が「特別な20年」とならないために、われわれは次の打ち手を考えていく必要があります。

「オープンイノベーション」っていう言葉がありますよね。Jリーグ、あるいは日本サッカー協会だけではなく、広く知恵を求めて打ち手を考えていかないといけない時代。これはサッカーだけでなく、あらゆる産業が今はそうなっています。われわれにとって、オープンイノベーションの一番のパートナーはメディアの皆さんです。皆さんにこういった情報を公開することによって、皆さんからたくさん知恵を頂いて、Jリーグの中でイノベーションを起こしたい。そういう思いから、今日の勉強会を開催しました。ぜひ、よろしくお願いします。

まず、こちらが今回の調査対象国です。世界チャンピオンになったドイツ、それからベルギー。ヨーロッパっていうのは、ビジネスでいうところの「シリコンバレー」です。インターネットの時代になって、これだけ情報が入るようになって、毎週リアルタイムでゲームを見られるようになっても、その場に身を置いていないとわからないことが実はたくさんある。長谷部君には身体で感じていることが、僕らにはまだわからないディテールがある。どうやったら「シリコンバレー」としてのヨーロッパの動きを捉えることが出来るか。そういう観点から、僕らは見ています。

それから今日のメインテーマであるアジア。中国、ASEAN諸国、それから2022年に向かっていよいよ動き出しているカタール。ACLの成績を見てもわかるように、日本は安穏とした地位にいられなくなっていると思います。今までと違って、何かを変えないといけない。それからもうひとつのグループが、今までのヨーロッパの伝統的なやり方とは違うやり方、新しいやり方で確固たるポジションを築きつつある、アメリカ、メキシコ、オーストラリア。あとで説明しますが、これらの国々にはある共通点があります。

今回の勉強会では、ワールドカップ以後の世界の大きな流れを皆さんとシェアしたいというのがひとつ。もうひとつは、アンダー世代でもACLでも、なかなか日本が勝てなくなってきたのはなぜかということ。アジアの差が縮まってきている背景について、われわれの解釈をお話したいと思います。それについての具体的な打ち手については、今回は言及しません。いずれあらためてお話させていただきますが、今日は全体像をつかんでいただければと思います。

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