どこよりも早い! 2018ロシアガイド 第11回 ロストフナドヌー、静かなるドン川のほとりで text by 服部倫卓
■ユーロ出場決定も順風満帆とは行かず
累次お伝えしてきたとおり、ファビオ・カペッロ監督の下で迷走を続けてきたロシア代表は、レオニード・スルツキー監督への交代を機に、息を吹き返した。そして、10月12日のユーロ2016予選の最終戦でも勝利したロシアは、最終的にライバルのスウェーデンに勝ち点差2で上回り、グループ2位を確保して、来年のユーロ本大会出場を決めた。
それにしても、スルツキー監督のチーム立て直しは、見事だった。格下相手の試合もあったとはいえ、彼の下でロシア代表はユーロ予選終盤に破竹の4連勝を遂げ、12得点・1失点と、ほぼ完璧な戦いだった。ワールドカップ・ブラジル大会でのグループステージ敗退、ユーロ予選の苦戦と続き、ロシア国民がサッカーにしらけ始めていただけに、逆転でのユーロ出場決定は、久し振りに希望の光をロシア・サッカー界に灯す形となった。もしかしたら、2015年のロシアのマン・オブ・ザ・イヤーには、スルツキー氏が選ばれるかもしれない。
しかし、ロシア代表の今後が安泰かと言えば、決してそうではない。そもそも、スルツキー氏は緊急措置として、CSKAモスクワの監督と兼任という形で代表チームを率いた。兼任はユーロ予選が終わるまでという前提であり、本人も「こんなことは何年も続けられない」と漏らしている。ちなみに、スルツキー氏がインタビューで述べているところによると、兼任はロシア・サッカー協会とCSKAの非公式な合意によって決まり、スルツキー氏本人は協会と契約すら結んでいないそうだ。いかに、今回の兼任が例外的な非常手段であったかが分かる。
というわけで、まずは代表監督をどうするのかを決めなければならない。ユーロ予選という山を越えたら、スルツキー氏はお役御免で、CSKAに戻るというのが、既定路線ではある。しかし、同氏の緊急登板があまりにも上手く行ったので、代表監督に転身することを期待する待望論も高まるだろう。ただ、スルツキー氏は、持ち前の人柄で代表チームを結束させ、急場をしのぎはしたものの、来たるユーロ本戦やワールドカップでしかるべき成績を期待できるような名将かというと、それは別問題のような気がする。
そして、もう一つの大問題が、プレーヤーの世代交代である。スルツキー監督率いるロシア代表は、とりあえず既存のカードをかき集めて、危機を乗り切ったという印象が強い。最近のロシア代表の顔触れを見て、私が気になるのは、全員がソ連時代の生まれであることだ。すなわち、社会主義のソ連邦は1991年の暮れに崩壊したわけだが、今のロシア代表チームには、1992年以降の新生ロシアの時代に生まれたプレーヤーがひとりもいないのである。ソ連崩壊からの数年間、ロシアは社会の混乱から出生数の急減に見舞われた経緯があり、その時代に生まれたサッカープレーヤーがなかなか台頭してきていないのである。
今のロシア代表で代えの利かない存在であるロマン・シロコフ(MF)は34歳、セルゲイ・イグナシェヴィチ(DF)は36歳、アレクセイとヴァシーリーのベレズツキー兄弟(DF)は33歳である。2018年に彼らが代表のレギュラークラスで活躍しているかというと、心許ない。ユーロ予選の突破という当面の目標をクリアしたことで、ロシア代表はいよいよ自国開催のワールドカップを見据えて、困難な世代交代へと舵を切ることになるかもしれない。
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