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【無料記事】明暗を分けた「明確な意図」 今日の現場から(2016年4月29日@味スタ)

ゴールデンウィーク初日の4月29日、久々にJ1のゲームを取材した。カードはFC東京対アビスパ福岡。暫定12位と17位の対戦は、後半16分のウェリントンのゴールを守りきった福岡が1−0で競り勝ち、今季初の勝ち点3を手にして16位に浮上した。対するFC東京は順位に変動はないものの、4月2日の名古屋グランパス戦(◯3−2)以来、リーグ戦4試合勝利なし。試合後、味の素スタジアムは猛烈なブーイングに包まれていた。

点差はわずかに1。それでも「サポーターの満足度」という点では、福岡がFC東京をはるかに上回っていた。ただしそれは、単に勝ち負けの差ではない。明らかな差があったとすれば、この試合に臨むにあたり「明確な意図」があったかどうかである──というのが私の見立てだ。

福岡の意図は、この日のシステムからして明快であった。いつもの3−4−2−1から4−4−2に変更。左のワイドで起用されることが多い亀川諒史は、左サイドバックとして守備に重きを置くポジションをとっていた。「攻められる時間帯が長くなるが、それを耐え忍んで勝利を目指そう」という井原正巳監督のメッセージは、選手はもちろんサポーターの間でも共有されていたはずだ。だからといって、特別なことをするわけでもない。指揮官自身、「システムが変わっても、ハードワークや球際や(攻守の)切り替えの速さといった基本的な方針は変わらない」と述べている。

対するFC東京は、意図がまったくもって不明確であった。ポゼッションを志向するわけでもなければ、連動した動きを見せるわけでもない。戦力面では明らかに上回っているのにアドバンテージを活かそうとせず、球際や走力で相手を凌駕しようとする気概も感じられない。この日の味スタは強風が吹き荒れていたのだが、風上に立って攻め続けた前半のシュート数はわずか2本。前半35分を過ぎても、両チームともにシュートゼロの状態が続き、取材ノートに書くべきトピックスがないまま時間ばかりが過ぎてゆく。「シュート打て!」コールを連呼していたFC東京サポは、さぞかし歯がゆく感じたことだろう。

もちろん、「意図が明確だったから福岡が勝った」などと言うつもりはない。末吉隼也の折り返しにウェリントンが頭で反応した先制ゴールはともかく、試合終了間際のPKのチャンスを森重真人が外したことについても、井原監督の「意図」と絡めて説明するのはやはり無理がある。だからこそ、これは勝ち負けだけの問題ではないのだ。

チームとしてやろうとしていることが明確であれば、たとえ敗れたとしてもサポーターはある程度は納得できる。逆に意図が明確でないまま勝利しても、何となくもやもやしたものが残るものだ。この日のゲームは、意図が明確だった福岡が辛くも勝利し、不明確だったFC東京が良いところなく敗れたので、両者のコントラストはことさら鮮明なものとなった。

試合後、城福浩監督は「受け入れ難いゲーム」という言葉を繰り返していた。申し訳ないけれど、それはサポーターのセリフである。ゴールデンウィーク初日、冷たい強風にさらされながら懸命に応援していたのに、このような不甲斐ない試合を見せられたのだから当然だろう。それにしても気になったのが、会見での指揮官の表情。何とも名状し難い切迫感に、事態の深刻さを痛感した。

<この稿、了>

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