宇都宮徹壱ウェブマガジン

身近なサッカーと「世界とのつながり」 EURO 2016取材から戻って考えること

 EURO 2016が行われているフランスから帰国して3日が過ぎた。ちょうどグループリーグ3巡目の途中で現地を離れたので、どのチームが決勝トーナメント進出を果たすか、やっぱり気になる。巷ではトーナメントの片方の山に強豪がかたまり、いきなり「スペイン対イタリア」という決勝のようなカードが実現して話題になっているが、個人的にはどうしても「小国の大健闘」のほうに気持ちが向く。

 アイルランドと北アイルランドは揃って3位で突破(アイルランドは3試合目のイタリア戦で22年ぶりの勝利を挙げた)。トーナメント初戦は、それぞれフランス、ウェールズと対戦する。特に注目したいのはウェールズ対北アイルランド。英国4協会同士の対戦が同一大会で二度も実現するのは、これが初めてのことだ。そして何といっても、アイスランド! オーストリアに2-1で勝利し、グループリーグ無敗の2位(ポルトガルよりも上)で、初出場ながら堂々の決勝トーナメント進出を果たした。失うものは何もない人口33万人の島国が、次のイングランド戦でも素晴らしい戦いを見せてくれることを期待したい。

 そんなこんなで、25日から始まるトーナメントの行方も楽しみなEUROだが、現地で取材していた時から個人的に気になっていたことがあった。それは「日本人の観客が少ない」ということである。最初は私の思い過ごしかと思っていたのだが、試合会場で撮影しているフォトグラファーの六川則夫さんも同じことをおっしゃていたそうで「やっぱりそうなんだ」と確信に至った。実際、スタジアムでもファンゾーンでも、そして移動している途中でもEUROを観戦に来ている日本人にはまず出会わなかったし、日本語の会話が聞こえてくることも皆無であった。

 私自身、EUROを現地観戦するのは2004年のポルトガル大会以来のことだが、あの時は「ちょっとウザい」と思うくらい、行く先々で日本人のファンがいた。また、普段から付き合いのあるサッカー仲間と合流して、一緒に試合を見たりバルで飲みながらサッカー談義をしたり、なかなか楽しく充実した日々を送ったものだ。ところが今回は、そうした機会がほとんどない(現地でお会いした日本人のチケット観戦者は実川元子さんだけであった)。

 もちろん、大会序盤だったということもあるかもしれないし、私が見ていたカードが(スタジアムであれファンゾーンであれ)いささかマニアック過ぎたのかもしれない。しかし、別の方面からも同様の指摘があったので、やはり私の思い過ごしではなかったようだ。これほど魅力的な試合が目白押しだったのに、日本のサッカーファンがフランスを訪れないのはなぜか。まず考えられるのは、長らく続く円安による割高感。実際、フランスでは移動費も宿泊費も食費も、随分と高くついた。外食すれば、どんなに庶民的な店でもメインディッシュにビールを付けて軽く2000円は飛ぶ。だが、日本のサッカーファンのEURO離れには、もうひとつ理由があると思う。

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