宇都宮徹壱ウェブマガジン

南部人の坂本サトルがラインメールの応援ソングを作った理由 今日の現場から(2016年7月2日@弘前)

 サッカーの試合にブーイングはつきものだが、ブーイングが起こりにくい時間帯というものがある。それはハーフタイムだ。前半終了直後ではなく、ハーフタイムのど真ん中でブーイングを聞いたのは、われながら極めて珍しい体験であった。カードは弘前市運動公園陸上競技場で行われた、JFLセカンドステージ第3節のラインメール青森対ヴァンラーレ八戸。いわゆる「青森ダービー」での出来事である。

 前半25分の中村太一の先制点により、青森の1点リードで迎えたハーフタイム、ラインメール青森のオフィシャル応援ソングが発表された。ピッチ上には、この曲(まだタイトルは決まっていないそうだ)を作詞・作曲したミュージシャンの坂本サトルさんが登場。ギターを片手に曲を披露した時に、八戸のゴール裏からブーイングが聞こえてきた(それほど大きなものではなかったが)。事情を知らない人は「いくらダービーだからって、応援ソングの発表にブーイングしなくても」と思ったことだろう。だが私は、ブーイングの矛先が坂本さん自身に向けられていたことを知っている。

 ブーイングの理由。それは南部出身の坂本さんが、津軽のクラブのために作詞・作曲をしたからだ。青森は津軽、八戸は南部。このふたつの地域は同じ青森県にありながら、江戸時代には弘前藩と南部藩に分かれており、気候も文化も言葉もまったく異なる。そして両者の対立項は、松本と長野の「信州ダービー」以上に根深い。まず、南部の人は津軽弁がほとんど理解できない(逆もまた然り)。また南部は冬でもほとんど雪が積もらないが、津軽は1メートルを超える積雪が当たり前。当然、そうした気候の違いは、ライフスタイルやメンタリティにも少なからぬ影響を与える。

 ちなみに坂本さんは、南部町出身(実家はりんご農家)で、高校は八戸という生粋の南部人(本人いわく「40歳になるまで、青森のねぶたは見たことがなかった」そうだ)。そんな彼が、ダービー関係にあるラインメール青森に楽曲を提供したことに対して、八戸のサポーターがブーイングで不満を表明したのも、サッカー的には理解できない話ではない。

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