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【無料記事】吹田は「刺さる」スタジアムである 今日の現場から(2016年7月9日@吹田)

 「今日の現場から」といいながら、すっかり日をまたいで「昨日の現場から」になってしまった。今後、夕方以降に開催される試合については、翌日のアップになる可能性が高くなることを、この機会にお断りしておく。昨日は、J1セカンドステージ第2節、ガンバ大阪対ベガルタ仙台の試合を取材してきた(結果は3-1でガンバの勝利)。今回は試合が行われた、吹田スタジアムについて言及することにしたい。

 吹田を訪れるのは3回目。だが、最初に訪れた時はまだ完成前で、次に訪れた時はキリンカップだった。ゆえに、吹田でガンバのホームゲームを取材するのは、今回が初めて。ここのスタンドの臨場感については、すでにあちこちのメディアで言及されているが、ここでは撮影者としてピッチレベルに立ってみて気づいたことを記す。

 吹田は「刺さる」スタジアムである。何が「刺さる」のかと言えば、視線と音だ。まず視線。これほど自分が「見られている」という感覚を、私は日本のスタジアムで経験したことがなかった。とにかくスタンドとピッチの距離が近いので、観客が単なる群衆ではなく、ひとりひとり個としてはっきりと認識できる。そのひとりひとりの視線が、こちらを見ているという感覚が(思い過ごしかもしれないが)、ある種の強迫観念を誘発するのである。実際にプレーする選手たちも、スタンドからの視線のプレッシャーに、当初はやりにくさを覚えたのではないか。

 次に音。試合前、仙台のゴール裏を通りすぎようとした時、「バン!」という破裂音が聞こえて一瞬たじろいだ。それはサポーターの太鼓の音だったのだが、普段聞き慣れた音でも、耳元で不意に鳴らされると度肝を抜かれる。また、試合中にガンバのゴール裏で撮影していた際、いきなり「ボケッ!」というヤジがはっきり聞こえたのも新鮮な驚きであった。これが海外のスタジアムなら、基本的に言葉がわからないので単なるノイズとして処理されるが、日本語だとダイレクトに伝わってくる。選手も自分に発せられたヤジを、明確に認識しているはずだ。

 ところで今季序盤戦、ガンバは吹田で行われたホームゲームで、なかなか勝てない時期が続いた。2月から4月までの公式戦8試合(ACL含む)では、勝利したのはわずか1試合。不調が続いた要因はさまざまだろうが、昨年まで使っていた万博とはまったく異なる環境もまた、要因のひとつに考えられるのではないか(とはいえ選手にしてみれば、そんな言い訳など口が裂けても言えないだろうが)。

 吹田は、観客には素晴らしい臨場感をもたらす一方で、ピッチに立つ者には「刺さる」スタジアムでもあった。もっともガンバの選手たちは、この新しい環境にすっかり順応したようにも感じられる。実際、この日の仙台戦は客席の半分が埋まらなかったにもかかわらず(1万9482人)、スタンドとピッチが一体化した最高の雰囲気を作り出していた。

<この稿、了>

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