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【無料記事】献本御礼『一流プロ5人が特別に教えてくれた サッカー鑑識力』 大塚一樹著

 帯には「最近ワクワクできない“倦怠期”のあなたへ」とある。著者の大塚さんは、サッカー以外にもテニスやバレーボールなどを題材とした著作があるらしい。その視野の広さと視点のユニークさは、本書からも十分に感じとることができる。

 内容は、サッカー界におけるさまざまな「プロ」が、それぞれのポジションからサッカー観を語るというもの。登場するのは、中村憲剛(川崎フロンターレ)、城福浩(FC東京監督)、大倉智(いわきFC代表取締役)、白井裕之(アヤックスアカデミー パフォーマンス・ゲーム分析アナリスト)、間瀬秀一(ブラウブリッツ秋田監督)の皆さんである。

 取材にあたり著者の大塚さんは「あなたの目と、頭の中を貸してください」とお願いしたそうだ。そして「異なる分野の、新たな視点を得ることで、サッカーの本質に近づく」ことを目指したとしている。その狙い自体は、ほぼ達成されたと言ってよいだろう。ただし、いちブックライターとして本書に対峙したときに「もったいないなあ」と感じてしまったのも事実。それは大塚さんの筆致ではなく、この本の成り立ちに対してである。

 本書に登場する5人は、それぞれ非常にサッカーへの視点がユニークだし、経歴も面白いし、キャラも立っている。それぞれの人物により深く切り込んだ「一冊のノンフィクション」として読んでみたいと思えるくらいだ。実際、湘南ベルマーレの社長を辞して福島県2部のいわきFCで壮大な夢を追いかけている大倉さんにしても、語学の天才でイビチャ・オシムの通訳(ジェフ千葉時代)を経て秋田を率いている間瀬さんにしても、ノンフィクションの題材としては非常に可能性を感じさせる。

 しかし残念なことに、この5人の中で「一冊のノンフィクション」としてゴーサインが出るのは、知名度のある中村憲剛と城福監督くらいだろう(実際、この2人に関する書籍は、すでに何冊か出ている)。ひとりひとりの取材対象者が、それぞれに魅力的であるからこそ「もったいないなあ」と思ってしまうのだ(それはもちろん、業界の構造的な問題であるのだけれど)。気軽に楽しく読めて、実はそれだけで終わらない「何か」を感じさせる一冊だ。定価1600円+税。

【オススメ度】☆☆☆★★

「次はぜひ、大倉さんか間瀬さんのノンフィクションに挑戦してください!」

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