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「クリスティアーノ・ロナウドはやっと僕に追いついたんですよ(笑)」 市之瀬敦(上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授)インタビュー<1/2>


 間もなく7月が終わり、リオデジャネイロ五輪一色となる8月に突入する。その前に当ウェブマガジンでは、ポルトガルの優勝で幕を閉じたEURO 2016について総括したい。今回のゲストは、上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授で、同大学ヨーロッパ研究所所長でもある市之瀬敦さんである(以下、いつもお呼びしている「先生」で通す)。

 市之瀬先生とはかれこれ15年来のお付き合いで、上智大で何回か開催されたサッカーに関する公開講座では、たびたびお世話になっている。先生ご自身、旧『ダイヤモンド・サッカー』時代からのサッカーファンで、ポルトガルのサッカーに関する著書も多数発表されてきた。ポルトガル代表に関してはEURO 84から30年以上ウォッチしており、今回の優勝を日本で最も喜んでいるはず──そう思って、今回の取材に臨んだ。

 ところが先生、こちらが想像していたほど、あまり喜んでいる素振りを見せない。理由を尋ねると「いやあ、今回は『かなりいける!』と思っていましたから」。では、その自信の根拠となっていたものは何か? これが本稿のテーマである。今大会、ポルトガルの優勝を予想した人は、それほど多くはなかった。にもかかわらず、市之瀬先生が「ポルトガル有利」と見た理由は何だったのか。さっそく、先生の言葉に耳を傾けてみることにしたい。(取材日:2016年7月13日@東京)

■延長戦に入ったところで勝利を確信

――先生、今日はよろしくお願いします。さっそくですがEUROの決勝は日本時間の7月11日午前4時キックオフでしたが、先生はご自宅のTVでご覧になったんでしょうか?

市之瀬 そうです、途中からだけど。ちょうど6時に起きて延長戦から見たので、エデルの決勝ゴールには間に合いました(笑)。

――でもピッチにいるはずのロナウドが、コーチングボックスで指示を出しているのには驚いたのでは?

市之瀬 ロナウドが途中退場したのは、毎朝早起きの妻がすでに起きていて、寝ぼけていた僕に知らせてくれたんです。「ロナウドが怪我していなくなったから、ポルトガルは負けだね」って。でもまだベッドで横になっていた僕は「いや、もし延長まで行ければ勝てる!」と思って、二度寝したんです、自信を持って(笑)。それで、6時に起きたら0-0で延長になっていたから、「ああ、これは大丈夫だ」と。

――それはなぜですか?

市之瀬 今大会は、延長戦になるとポルトガル強かったでしょう。それにフランスは1日(休養が)短くて疲れていたし。まあ、ポルトガルが90分で勝利したのは準決勝のウェールズ戦だけということで、「そういうチームが優勝するのってどうなの?」という議論は確かにありうると思いますが。

――エデルのゴールの瞬間は、どんな想いでしたか?

市之瀬 単純に、嬉しかったですね。というのも、エデルは僕の一押しだったから。実は6年前、研究休暇でコインブラ大学にいたんですけれど、その時に彼はコインブラ・アカデミカというクラブでエースストライカーだったの。

――あ、コインブラでプレーしていたんですか?

市之瀬 そう。その後、北部のスポルティング・ブラガに移籍して、次がスウォンジーで、今は確かリーグ・アンのリールかな。でも、彼が有名になるきっかけはコインブラ時代で、けっこう点を取っていたんですよ。上背のある、それまでのポルトガルにはいないタイプのストライカーだったので、3年くらい前の『フットボリスタ』で「ようやく期待のストライカーがポルトガルに現れた」みたいな記事を書いたんです。それがやっと大仕事をやってくれて。しかも、代表ではほとんどゴールを決めていなかったはず。おかげで、僕も嘘つきにならずに済んでほっとしました(笑)。

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