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【無料記事】それでも「続投がベスト」なのか? 今日の現場から(2016年8月20日@日立台)

 浦和レッズと川崎フロンターレによるJ1の天王山が行われた8月20日、日立台で行われた柏レイソル対名古屋グランパスのゲームを取材してきた。名古屋の関東でのアウエー戦は、今季はこれが最後。そろそろ復調の兆しが見られるかと密かに期待をしたのだが、結果は1-3でまたしても敗れてしまった。これで連続未勝利記録は17試合。15位のヴァンフォーレ甲府との差は7ポイントに広がり、いよいよ初のJ2降格が現実味を帯びてきた。

 7月30日の横浜F・マリノス戦(△0-0)から採用された名古屋の5バックは、前半は何とか持ちこたえていた。右サイドの矢野貴章と左サイドの安田理大は、それぞれクリスティアーノと伊東純也に対して懸命にマッチアップし、相手の折り返しに対しても気迫で弾き返していた。しかしエンドが替わった後半は相手のスピードに追いつけなくなり、58分(伊東)と70分(クリスティアーノ)に失点。75分には、2つのゴールをアシストしたディエゴ・オリヴェイラにCKからヘディングで決められ、守備は完全に崩壊した。

 守備以上に絶望的だったのが、名古屋の攻撃である。前半のシュートはわずかに1本。カウンターのチャンスの際、小川佳純が自らドリブルで持ち込むことなくバックパスをしたシーンには、思わず絶句した。チームとして4試合ぶりとなるゴール(81分)を決めた川又堅碁、そしてアシストした和泉竜司が、いずれも途中出場であったのも名古屋サポーターにとっては複雑な心境であろう。あくまで結果論ではあるが、彼らがスタメンで起用されていたなら、もう少し違った試合展開になっていたのではないか。

 5バックを採用した4試合で、すでに7失点を喫したディフェンス陣。セカンドステージ9試合目で、わずか2得点しか挙げられないオフェンス陣。これらはいずれも選手の問題以前に、小倉隆史監督の経験不足に起因していると言わざるを得ない。試合中、ピッチ上にカメラのレンズを向けながら、事あるごとに若き指揮官の動向を観察していたのだが、茫洋とした表情でベンチ前に立ちつくすばかり。そのベンチワークからは、およそ機微や情熱といったものが感じられなかった。名古屋のゴール裏から「小倉! もうちょっと考えてくれよ!」というヤジが飛ぶのも当然である。

 先月末、FC東京とジェフユナイテッド千葉が相次いで監督を解任した際、名古屋だけは久米一正社長が「小倉続投」を明言していた。この時は「随分と肝が座った社長だな」と好感さえ抱いたものである。だが、その考えは撤回しなければなるまい。この日のゲームから、小倉監督を残留させることで得られる「J1残留のための担保」というものが、さっぱり見えてこなかったからだ。果たして久米社長は、何を根拠に「J1残留に向けて(小倉監督の)続投がベスト」と考えたのだろうか。それは先月のサポーターズミーティングで、彼が語っていた「忍者」と同じくらい謎である。

 最後に、試合後の会見で、個人的に気になったことを指摘しておく。記者とのやりとりの中で、小倉監督の声が不自然に声高になることがあり、何やら胸騒ぎを覚えてしまった。もちろん、単なる思い過ごしであってほしいのだが、自分の声のボリュームを制御できないくらい混乱しているのではないかと強い懸念を抱いた。もはや限界は目に見えている。久米社長は、自らの責任をもって決断すべきだ。いくら「小倉監督を育てる」といっても、現状維持がベストの選択だとは到底思えない。小倉監督にとっても、そしてクラブにとっても。

<この稿、了>

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