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サッカーを見せるよりも選手の内面を描きたかった 映画『U-31』 綱本将也(原作)&谷健二(監督)インタビュー<1/2>

 今月27日、Jリーグファン(とりわけジェフ千葉サポ)必見の映画が公開される。タイトルは『U-31』。原作は『GIANT KILLING(以下、ジャイキリ)でお馴染みの綱本将也さん(写真右)。そして監督は、今が長編2作目となる谷健二さん。今回はこのおふたりのインタビュー記事をお届けすることにしたい。

『U-31』という作品は、講談社の週刊漫画雑誌モーニングで連載され、その後小説版がエル・ゴラッソで連載され、最終的に両者が合わさった単行本が発売されるという、数奇な運命を辿った作品である。漫画の連載スタートが2002年というから、もう14年前の話だ。原作者の綱本さん自身、最初に映画化の話がもたらされた時には、にわかに信じられなかったという。

 プロフットボーラーの現役引退にフォーカスした『U-31』は、なぜ今、このタイミングで映画化されたのであろうか。そしてこの作品は、われわれサッカーファンにどんなことを訴える作品に仕上がったのであろうか。さっそく、綱本さんと谷さんに語っていただくことにしたい。(取材日:2016年8月17日@千葉 協力:ジェフユナイテッド千葉)

(C)2016 綱本将也・吉原基貴/講談社/「U-31」製作委員会

■常に「ご自由にお願いします」というスタンスで

――今日はよろしくお願いします。さっそくですが、まずは綱本さんに作品の感想を伺いたいと思います。ご自身のデビュー作が映像化されたことについて、どんな感慨がありますでしょうか?

綱本 試写会でたときは、何とも言葉にできない感動がありましたね。アニメ化というのは『ジャイキリ』で経験しているんですけど、実写というのは今回が初めてだったので。マンガの実写化って、原作者からすると違和感を覚えることもあるみたいですけど、自分としてはすんなり入っていけて、最後までひっかかりを感じることはなかったです。純粋にいい映画を作ってもらったなと。あっという間の1時間半(86分)でしたね。

――谷監督は、今回が長編2作目ということで、あえてサッカーという題材を選んだわけですが、ご自身のサッカーとの付き合いはどのようなものだったのでしょうか?

 僕は大学の途中までサッカーをやっていまして、今でもフットサルを楽しんでいます。人生のパーセンテージでいうと、映画よりもサッカーの方が付き合いは長いですね(笑)。

――では「いつかサッカーの作品を作りたい」という希望はあったんですか。

 それはありました。実はけっこう古今東西のサッカー映画を見ているんですけど、あまりサッカーが好きじゃない人が撮っている作品と思うのもあって、そういうのってソックスの履き方とか、スパイクの紐の結び方とかでわかるんですよ(笑)。あるいは「こんなイケイケの攻撃的なキャラなのに、背番号2はないだろう」とか。自分がサッカー映画を撮るんだったら、もっとリアリティのあるものが出来るんじゃないかと。

――なるほど。先ほど綱本さんが原作者として「すんなり入っていけた」と発言されていましたが、その点についてはいかがでしょうか?

 綱本さんと自分の意図が間違っていなかったというのは、とても嬉しいですね。マンガや小説の映画化って、いろいろと難しい部分があって、たとえば10巻のマンガを全部映画化すると、全体にメリハリが欠けたものになりがちなんですよ。でも、この『U-31』については前半の部分だけに絞って映像化したので、そこで作品のエッセンスを表現することができたのかなと思っています。

綱本 初めに映画化のお話をいただいた時に「これ、全部を映画にするのは大変だろうな」と思ったんです。でも、脚本を見せてもらったら作品の前半部分までだったので、これならけるだろうと思いましたね。

 無理やり詰め込みすぎると、かえって薄くなりますからね。

――あとでまた触れると思いますが、作品のテーマが「プロサッカー選手にとっての引退」に収斂されたという意味でも、正しい判断だったと言えるでしょうね。ところで綱本さんにとってこの『U-31』という作品は、デビュー作ゆえに相当な愛着があるかと思いますが、作品を発表してからすでに10年以上が経過しています。このタイミングで映画化されたという点に関してはいかがでしょうか?

綱本 正直、お話をもらった時は「え、本当?」っていう感じでしたね。「本気なのかな?」と正直に思いました。まずは話を聞こうということで、講談社で打ち合わせをして、その時に監督とプロデューサーさんにお会いしたのかな。そこで僕からは「映画化したいっていう熱意があれば、どう料理されてもいいので、ご自由にやってください」と申し上げたことは覚えています。

――随分と鷹揚ですね。

綱本 というのも原作者って、常に料理される立場なんですよね。漫画家さんに料理され、アニメ化されたらアニメの監督に料理され。ですので、僕は常に「ご自由にお願いします」というスタンスです。今回の場合もそういう感じだったんですけど、出来上がってみたらとても美味しい料理になっていたので、その意味でも嬉しかったですね。

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