宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜ「ハリルホジッチ解任論」は蔓延するのか? オーストラリア戦から考える指揮官の評価<1/2>

 日豪戦の取材を終えて13日にオーストラリアから帰国した。今回の日豪戦に際し、当WMでは植松久隆さんへのインタビューによる「予習」、そしてフォトギャラリーによる「現地報告」を行ってきたが、今回の「復習」をもってこのシリーズを締めくくる。あまり間を置かないほうがよいと判断し、来週のメインコンテンツをあえて前倒しでお送りすることにした(いつも金曜日にアップしているウィークリーコラムは、来週2本アップする予定だ)。

 今回は同業者の河治良幸さんをゲストにお招きし、帰国前のメルボルン国際空港にて対談を行った。前半部分はオーストラリア戦の分析(こちらは河治さんにメインで語ってもらった)、後半部分はメディアに蔓延する「ハリルホジッチ解任論」についての意見交換という形になっている。

 とりわけ後半部分のテーマについては、読者のミスリードを招くような記事を最近よく見かけるようになり、私も河治さんもかねてより危機感を抱いていた。もちろん健全な批判記事もないわけではないが、指揮官の言動を曲解して読者を煽り、何とかPVを獲得しようとする構図については、むしろメディアの危機的状況であると指摘せざるを得ない。

 そんな思いもあって、いささかイレギュラーではあるがこのタイミングでのアップとなった。反響があれば、近いうちにYahoo!個人での公開も考えたい。以上をご理解の上、最後までお読みいただければ幸いである。(2016年10月12日収録@メルボルン)

■オーストラリア戦は「絶対に」勝つべきだったのか?

――今日はよろしくお願いします。日豪戦は1-1の引き分けに終わったわけですけど、ずばり評価はどうでしょうか? 私自身は70点くらいあげていいかと思うんですが。

河治 現実的な結果かなっていうのは思いますね。願わくは、2つぐらいあった決定的な後半のチャンスを決めて2-1にしているか、もしくは無失点に終わる形で1-0の勝利になれば理想的でしたけど。でもちょっとそこは望み過ぎかな。

――実のところ、試合が始まってみてわかったことがけっこうありましたよね。相手が不慣れな布陣で挑んできて、しかもそれがあまり機能していなかったというところで「あれは勝てたんじゃないか」という意見もけっこうあったと思うんです。とはいえ試合前に関しては、相手のコンディションは万全。こっちは酒井宏樹がサスペンド、長友佑都が怪我でいずれも離脱していたし、岡崎慎司もスタメンは厳しいという状況だったじゃないですか。「こりゃあ、引き分けで御の字だ」と思いましたよ、正直なところ。

河治 お世話になっているサッカーダイジェスのウェブ版が「中東3試合がこの後残っているから、オーストラリア戦は勝ち点3を取らないとダメだ」という記事を出していたんですよね(参照)

――ありましたね。そりゃあ、オーストラリアのアウエーで勝ち点3を取れれば最高ですけど、あまり現実的ではないと思うし、むしろ中東でのアウエーにも十分チャンスはあると思いますけどね。

河治 そういう報道が一般スポーツ紙だけでなく、専門誌まで追随しているのが、今の代表報道をめぐる空気感ですよね。でも、これまで取材している人ならわかると思うんだけど、中東だから必ずしも厳しいというものではないと思います。UAEのアブダビの試合って観客が和やかで、おそらくそこまでアウエーな雰囲気にならないし、開催される3月は欧州組も合流しやすい。もちろん、Jリーグ開幕直後の国内組は合わせていく必要がありますけど。あとイラク戦は中立地でやることが決まっていて、テヘランで開催されることが濃厚ですけど、日本は去年、アザディで2試合やっていますからね。

――となると、本当の意味で厳しいアウエー戦となるのは、最後のサウジアラビア戦。おそらくジェッダで行われるんでしょうけれど、そこくらいですよね。そうして考えると今回、メルボルンで勝ち点1をゲットできたのは、非常に重要だと思いますよ、やっぱり。

河治 と思います。今回、サウジアラビアがUAEに勝って、勝ち点10で首位に立ちましたが、もし日本が負けていればオーストラリアも勝ち点10。2位と3位が4ポイント差になっていたわけで、かなりナーバスな状況になっていたと思います(註:現在、2位オーストラリアと3位日本とは1ポイント差)。今回、サウジとUAEとの差が明らかになりましたけど、上位4チームはまだまだ何が起こるかわからない状況ですよね。

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