なぜ「ハリルホジッチ解任論」は蔓延するのか? オーストラリア戦から考える指揮官の評価<2/2>
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■「ハリル監督キレた」は真実だったのか?
――ここからハリルホジッチの評価について考えたいんですけど、最近のアンチ報道ってどう思います? もちろん批判すること自体はまったく問題ないんですが、最近の読者を煽るような酷評記事には正直げんなりしています。前日会見のとき、最後の質問に答えたら英語の通訳が終わらない間に退席したことを捉えて、「ハリル監督キレた」なんて見出しが踊りましたが、あれは河治さんの質問でしたよね。
河治 そうです。まず外国人記者から「最近、日本代表が批判されていると聞いているが、それはフェアなことか、それともアンフェアか?」という質問があり、それから大住(良之)さんの質問があって、いったんその話題から離れてから僕が質問したんです。
――質問の内容は「昨年の同じ時期にイランのテヘランで質問したとき、『メディアやファンの人たちは待てないが1年後、2年後になれば違ったものを見せられる』と言っていた。本大会での最終型を見据えたところで、チームの現状をどう考えているか?」というものでしたね。(参照)
河治 それで僕の質問に答えて、羽生(直行)さんが英語に翻訳してから、ハリルホジッチが最後に「海外組15人のうち12人がスタメンで出ていないという状況が分かっていれば……」と言って、樋渡(群)さんがフランス語で通訳を終えたとたんに立ち去ったんですよね。あれはキレたとかそういうことではなくて、単純に会見後の練習のことで頭がいっぱいだったんじゃないですかね。
――とはいえ、まだ羽生さんの英語の翻訳が続いていたじゃないですか。少なくともオーストラリアの記者には心証が良くなかったと思いますよ。というか今回の件にかぎらず、ハリルホジッチってメディアの付き合い方が上手くないですよね。オシムさんのように、軽くいなすことができない。そこがすごく残念なところで。
河治 これまでも、ディナモ・ザグレブとかアルジェリア代表とかでメディアと衝突がありましたよね。その原因として考えられるのが、良くも悪くも正直であることだと思うんですよ。でもって、樋渡通訳もそれをストレートに訳してしまう。
――樋渡さんのことを悪くいうつもりはまったくないんですが、監督の発する言葉を同時通訳で出してしまうことについては、いち取材者として以前より気になっていたんですよ。たとえばオシムさんの通訳をやっていた千田善さんは、オシムさんが一通り話した言葉をいったん自分の中で精査して、わかりにくい言い回しや誤解を招きそうな言葉を意味が変わらない程度に瞬時に補正しながら訳していたんですね。もちろん本業が通訳ではない樋渡さんに、そこまで要求するのは酷ですよ。だったら会見は、専門の通訳を置くことも考えたほうがいいんじゃないかと思うんですね。
河治 ピッチ内の指示を与えるには、コーチの経験がある樋渡さんはすごく適任だと思う。ただし、オフ・ザ・ピッチで選手に監督の意図を伝えるとか、会見でメディアに伝えるといったときに、今のやり方がいいかというとちょっと疑問ですよね。フランス語特有の言い方というのがあって、それがストレートに訳されてしまうと、日本の記者は不信感を抱いてしまうこともある。もともと選手コメントが制限されていたこともありますし。
――事情をご存じでない読者の方に説明すると、前任のアギーレ監督の時代までは、試合前のミックスゾーンでは選手全員に話が聞けたんです。もちろん本田のように、話す日とそうでない日を設けていた選手もいましたけど。ところがハリルホジッチが監督になってから「選手のメディア対応の時間を節約したい」という強い要望が出て、試合前は選手を4つのグループに分けてメディア対応するようになったんです。
河治 ことの発端は、合宿における選手の取材時間や質問の数に監督が制限をかけようとして、ミックスゾーンがぎくしゃくしたことがあって、広報さんと記者の協議をまとめた結果、ローテーションにする代わりにこれまで通りの時間で対応するという妥協案に落ち着いたわけです。
――そうでしたね。
河治 まあワールドカップ直前のときは、岡田(武史)さんやザックの監督時代にもありましたけどね。でも、毎回コメントが取れる選手の数が6人くらいになってしまうと、すぐにコメントがウェブメディアに載ってしまって、そのことにストレスを感じる記者も少なからずいると思います。記事を書くにしても、同じ選手による同じ内容のコメントしか手元にないから、どうしても差別化が難しくなる。
もちろん記者によっては、練習で見たままのことを記事にすることも可能なんだろうけど、試合の2日前からは非公開練習になるし、そもそもそういう記事ってあんまりヤフトピ(ヤフートピックス)に載らないんですよね。やっぱり選手の名前とコメントを全面に出して、少し煽り気味のタイトルにしたほうが、どうしても目立ってしまうという。
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