宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】バス停で出会った女性(ひと) 今日の現場から(2016年10月23日@新居浜)

 22日の土曜日より、愛媛で開催中の全社(全国社会人サッカー選手権大会)を取材している。大会のレポートは今週アップ予定のフォトギャラリーを楽しみにお待ちいただくとして、今回はピッチ外のエピソードを紹介することにしたい。

 今大会の5会場は、アクセスが容易でないところが少なくない。この日、訪れた新居浜市営サッカー場もそのひとつ。JR新居浜駅からタクシーに乗るのが手っ取り早いが、片道2000円くらいはかかるという。どうしたものかと思っていたら、たまたま列車で一緒だった地域リーグ仲間(普段はSC相模原を応援しているので「S氏」としておく)から、「在来のバスを使って行けますよ」とのありがたい情報を得て、同行させていただくことにした。

 S氏によると、新居浜駅前から2番乗り場のバスで「東雲(しののめ)」という停留所まで行き、河川敷にある臨時の駐車場からシャトルバスが出ているという。聞けば市営サッカー場は駐車場のスペースが限られているため、このような措置がとられているそうだ(もっとも、そうした情報は事前にHPで告知するか、せめて駅前にそうしたインフォメーションを出して欲しいところである)。

 かくしてS氏と東雲行きのバスに乗ったわけだが(運賃は170円だった)、実はもうひとり、われわれと共に市営サッカー場を目指す女性がいた。しかも、20代と思しき美人さん。「スタジアムの行き方がわからないので、どうしようと思ったら、おふたりの会話が聞こえてきたもので」──この感覚、全社や地域決勝に行ったことのある人なら、誰もが経験済みであろう。

 それにしてもこの美人さん、どうも普通のサッカーファンとは決定的に佇まいが異なる。「どこのチームを応援しているんですか?」と尋ねてみると「サウルコス福井です。昨日、5時間かけて福井から来ました(笑)」。とはいえ、あまりサッカーのことは詳しくない様子。それは私とS氏とで、福井の監督代行となった今井昌太の話題で盛り上がった時に、あまり乗ってこなかったことからも明らかだ。

 いろいろ探りを入れているうちに、どうやら福井のある選手と交際中であることが判明。なるほどね(笑)。にしても、さほどサッカーに関心があるわけでなく(しかも全社の位置付けもよくご存じではなさそうなのに)、彼氏を応援するためだけに5時間かけて福井から新居浜までやって来た彼女の行動力と心意気には、何やら心が洗われるような気分になってしまった。

 ちなみに福井は、今季の北信越リーグを2位で終えており、この今大会で「全社枠」を獲得しなければ地域CLに出場できない。昨年の地域決勝での悲哀を間近で目撃していだけに、実は福井に対しては密かに「頑張ってほしい」と思っていた。だが、この日の2回戦でヴィアティン三重に0-1で敗れてしまい、福井は来季も北信越で戦うことが決まった(参照)

 シャトルバスを降りたとき、「いいゲームになるといいですね!」と言って別れた、あの美人さん。どんな思いで終了のホイッスルを聞き、福井に戻っていったのであろうか。想像するたびに、何とも切ない気持ちになる。救いがあるとすれば、お目当ての彼氏がピッチ上でプレーしていたことであろうか。

<この稿、了>

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ