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Jリーグが日本の風景にもたらしたもの 『百年構想がある風景』著者 傍士銑太インタビュー<1/2>

 かねてより予告していた私の3年ぶりの新著『サッカーおくのほそ道』が、いよいよ今月17日に発売される。本書は、全国津々浦々の街にある「Jリーグを目指すクラブ」と「目指さないクラブ」を追いかけたルポルタージュであるが、私が常に意識していたのが、訪れた土地の「地域性」、もっと言えば「ご当地感」であった。

 そこで当WMでは今回の出版を記念して、今週と来週の2週にわたり、この「地域性」や「ご当地感」への考察を深めるためのインタビュー記事を2本ご用意した。今週、ご登場いただくゲストは、元Jリーグ理事の傍士銑太(ほうじ・せんた)さん。現在の肩書は「日本政策投資銀行 地域企画部参事」ということで、何やらお硬いイメージがあるかもしれないが、2年前には『百年構想がある風景―スポーツ文化が国の成り立ちを変える(以下、『百年構想がある風景』)という、非常に滋味あふれるJリーグに関するエッセイ集を上梓されている。

 その一方で傍士さんは、全国各地の自治体に招かれては「地元にプロスポーツクラブがあることの意義」についての講演を続けており、その内容に感銘を受けた人も少なくない。「百年構想の伝道師」という言い方もできるかもしれないが、私はむしろ諸国を漫遊する「Jリーグの黄門様」というイメージを密かに抱いてきた。奇しくも私自身、このたび松尾芭蕉へのオマージュとなる新著を発表したわけで、黄門様と芭蕉、それぞれの視点から見た「百年構想がある風景」について語り合った次第。最後までお付き合いいただければ幸いである。(取材:2016年8月16日@東京)

■「自分たちの街にクラブがある」という意識

――今日はよろしくお願いします。まずは14年に上梓された『百年構想のある風景』というコラム集について伺いたいと思います。これはJリーグの公式サイトでずっと連載されていたものでしょうか?

傍士 はい、スタートは2007年12月でした。僕は2001年に(赴任先の)ドイツから帰ってきて、その後に理事としてJリーグに関わるようになりましたが、その頃には年に1回の「ホームタウン会議」というものが開催されていました。そこで基調講演を任されて、いろいろと自由にしゃべっているうちに、Jリーグの広報スタッフの方から「内容をコラムにしてもらえませんか?」という依頼を受けたんです。

――書き手の立場から見ても、かなり書き慣れているという印象を受けます。

傍士 そんなことはないですよ(笑)。ここにも書きましたが、僕の最初の読者は、いつも家内から始まります。家内はサッカーやスポーツにそれほど詳しくないんですが、主婦や中学生にも共感してもらえるように気をつけました。分量的には、一話1000字くらいですね。多少は増減があってもいいし、特に毎回締め切りがあるわけでもない。書くことが多ければ週1ペースで書くときもあったし、気持ちが乗らないときは1カ月くらい間が空くこともありました(笑)。

――随分と自由度が高い連載だったんですね(笑)。

傍士 仕事もありますから、それが条件でした。8年の理事の任期が終わるのが14年の1月で、その時に150回くらいのタイミングだったんです。そこでいったん終わりにして、書籍にまとめたいなと思っていたところに、幸運にもJリーグを通じてベースボール・マガジン社さんから出させていただくことになりました。長さがまちまちだったのを、見開きで収まるように調整して、いかにストーリー立てて並べていくかを考えました。

――本書を上梓するにあたり、どんな読者を想定されたのでしょうか。ガチガチのサッカーファン向けでないことは明らかだと思うのですが(笑)。

傍士 おっしゃるとおりです(笑)。表紙にサッカーボールが入っていますが、私が全国で講演を頼まれる時にお話するテーマって、やっぱり地域を元気にするような発想が多くなるんですね。もちろんサッカーやスポーツの話もするんですけど、それはあくまでも手段であり、Jリーグの理念を絡めて話したほうが理解していただきやすいというのはありますね。

 Jリーグが始まった当初は、親会社中心のプロ野球のシステムと比較すれば理解しやすかったし、今だったら「地域密着」というキーワードによってクラブの存在意義が伝えやすくなりました。ただ、最近は「それだけでいいのかな?」と思うようになって、むしろ地域の人たちがクラブの存在をどう受け入れるのかを考えないと。つまり、相思相愛の関係になっていかないといけないのではないかと考えるようになりました。

――Jリーグなりクラブなりは「地域密着」というものをずっと謳ってきましたけれど、地域の側がクラブを受け入れない限り、一方的なラブコールでしかないですよね。

傍士 そういうことです。クラブからの一方的なアプローチだけだと支援も小さい。その輪を大きくしていくためにも、地域の側が「自分たちの街にクラブがある」という意識を表現することが大事だと思います。Jクラブのサポーターは、自分たちのクラブのことを「ウチ」と言いますね。つまりサポーターの皆さんは、地元のクラブを「身内」だと認めている。クラブが地域にとって「ファミリー」の一員となっていくことが重要なんですね。

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