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【無料記事】最後のダービーを制してヴィアティン三重がJFLへ 今日の現場から(2016年11月27日@ゼットエー)

 千葉のゼットエーオリプリスタジアムで開催されている地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)2016。決勝ラウンド3日目の第1試合では、ヴィアティン三重が鈴鹿アンリミテッドFCを4-1で下し、残り1枚のJFLへの切符を手にした。

 同じ三重県を本拠とする両クラブは、いわゆるダービー関係にある。ランポーレ時代から7シーズン、東海リーグ1部に在籍している鈴鹿に対し、三重は今季より2部から昇格。「鈴鹿さんは仰ぎ見るような存在だった」という三重の海津英志監督のコメントは、決して謙遜ではないだろう。実際、今季の鈴鹿との対戦成績は、リーグ戦が1分け1敗。三重県社会人サッカー選手権大会、三重県サッカー選手権大会(天皇杯代表決定戦)、全社(全国社会人サッカー選手権大会)準決勝では、いずれも敗れている。

 対する鈴鹿の小澤宏一監督は、試合前日に「三重に一度も敗れていないことが、むしろ最も警戒しなければならないこと」と語っていた。その危惧は的中する。鈴鹿は10分に得たPKで先制するも(決めたのは北野純也)、三重は驚異的なリバウンドメンタリティーから前半の間に藤牧祥吾(35分)と加藤秀典(43分)の連続ゴールで逆転に成功。さらに後半も、加藤と藤牧が1点ずつを叩き出し(61分、63分)、同県の先輩クラブを圧倒した。勝者にはJFLへの道が拓かれ、敗者は来季も東海リーグ。しかも同県対決ということもあり、試合後の両者のコントラストは、例年以上に明快かつ苛烈であった。

 さて、この試合で個人的に注目していたのが、2ゴールを挙げた13番のエースストライカー、藤牧である。長身のセンターフォワードで、ボールが面白いくらいに収まり、ぴんと背筋を伸ばした状態から威力のあるヘディングやキックを放つ。地元三重の出身で、ヴァンフォーレ甲府(当時J2)、藤枝MYFC(同JFL)、ガイナーレ鳥取(J3)でプレー。関東リーグ1部のVONDS市原FCを経て、昨シーズンより三重に所属している。そんな藤牧にとり、決勝ラウンドの会場であるゼットエーでプレーすることには、内心期するものがあったという。

 実はこの会場で決勝ラウンドが開催されるのは、14年以来2年ぶり。この年、藤牧が所属していた市原は、全社枠3位で地域決勝に出場したものの、1次ラウンドで敗退となり、自分たちのホームグラウンドでJFL昇格を果たす夢は潰えてしまった。そして千葉県サッカー協会からの要請により、彼らは運営スタッフとして決勝ラウンドの戦いを見守ることとなったのである。その中に、当時25歳の藤牧の姿もあった。

「あの時、僕は担架要員でした(苦笑)。今回、ゼットエーでやれるというのは個人的にテンションが上がりましたね。この舞台で自分が2ゴール決めて、しかもJFL昇格を決めることができたというのは、何か持っているなと思いました」

 全社を5試合戦い、3位で地域CL出場を決めたのは2年前と同じ。今回は決勝ラウンド進出を果たし、自身のゴールでJFLへの重い扉を開いた。一連の戦いを終えての感想を訊くと「正直、この経験を来年もしたくなかったですね。1年で上がらんとあかんし、負けたら終わり。鈴鹿もそうだったと思いますが、精神的なストレスがつのる大会でしたね」と、率直な感想が返ってきた。市原時代の苦渋を経験していれば、なおさらであろう。

 かくして藤牧は来季、JFLの舞台に復帰することとなった。13年に藤枝でプレーしていたときは、現在と同じ13番を背負って22試合に出場するも、わずか1ゴールに終わっている。再び全国リーグに舞台を移した来季は、その美しいフォームから是非ともゴールを量産してほしいものだ。そしてあらためて──JFL昇格おめでとう、ヴィアティン三重!

<この稿、了>

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